婚約者様、「君を愛することはない」と貴方が乗り込んできたせいで私と貴方の魂が入れ替わってしまったではないですか!責任を取ってください
9(最終話) ローレンス様、責任を取ってください
もうその後は嫌と言うほど色んな人が話をしにきた。
誰もかれもが殿下の友人の私と近づきになりたいというのがバレバレ。つまらないおべんちゃらばっかり。やっぱり社交界なんてろくなもんじゃないわ。私がぐったりしたのを見たローレンス様は、早めに失礼すると言って会場から連れ出してくれた。
帰りの馬車の中、また気まずい空気が流れる。でも行きのとは逆で私はローレンス様に秘密を持っていたのがいたたまれなくて彼と目を合わせられないのに、向こうは神妙な顔でじっとこちらを見つめてくる。ああ、怒っているのかしら。
「リディア嬢」
「は、はいっ、すみません!」
「いや、こちらこそすまなかった……君を守ると約束したのに、果たせなかった」
「え」
行きの馬車で言ってたのは、もしかして……
「『俺が守る』と言うのは、あの人たちの嫌がらせから守るって意味だったんですか……?」
「ああ、だけど間に合わなくて申し訳なかった」
「そんな! ローレンス様は私を守ってくださいました」
プライウッド男爵令嬢達に向かって「俺はリディア嬢を信じる!」と言ってくれた時に、どんなに心強かったか。
「いや、でも……えっ!?」
私の中で緊張の糸がプツンと切れ、今度こそ私の目からぽろぽろと涙がこぼれてしまった。涙でぼやけていても、ローレンス様が慌てているのが大袈裟な身振りと声でわかる。
「あ、あの、リディア嬢、大丈夫か!?」
「大丈夫です……ドレスも無事だったし」
「ドレスなんてどうでもいい!」
「どうでも良くないです。だってローレンス様が贈って下さったドレスだから、どうしても破られたくなかったの……」
「!!」
ハンカチを握りしめる私の手を、そっと大きな手が包む。
「それは、うぬぼれてもいいのかな?」
「?」
涙でぼやけて、彼がどんな表情をしているのかわからない。だけど凄く優しい声だった。
「俺、正直なことを言うと……この後、君との婚約を解消しなければいけないと思っていた」
「!!……うっ」
やっぱり私なんかじゃローレンス様にはふさわしくないんだわ。いけない。我慢しないとと思えば思うほど、涙があふれてくる。
「あっ! 違うんだ、すまない! ああ、俺はなんて馬鹿なんだ!!」
彼の声がまた慌てたものになり、白いものがそっと私の涙をぬぐう。それは手袋をはめた彼の指先だった。
「リディア嬢、君は素晴らしい女性だ」
「……?」
私の涙が拭き取られると、視界がクリアになる。目の前には優しく微笑むローレンス様の顔があった。