婚約者様、「君を愛することはない」と貴方が乗り込んできたせいで私と貴方の魂が入れ替わってしまったではないですか!責任を取ってください
「俺は一生君に勝てない。チェスの強さも、薬の知識も、あんなに嫌がらせや誹謗中傷を受けていたのにじっと耐える忍耐力も、俺には決してないものだ。それに君は殿下の友人でもある。俺ではとても君に釣り合わない。せめてフィンリーくらいの男じゃないとダメだと思ったんだ」
「え? フィンリー様!?」
何を言ってるの!? あんなチャラくて変なところにカンが良くて酒癖がちょっとよろしくない男の人なんてまっぴらごめんよ!!
「ああ、だけど……本心では君をフィンリーにも誰にも渡したくない。君が俺と、このまま結婚してくれたらどんなに幸せか」
「!?」
それって、ローレンス様が? 行き遅れって言われてる私と?
「私で……いいのですか……?」
「君が良い。こんな俺で良かったら」
これは、夢? 嬉しくて、私の目からまた涙がこぼれた。
「はい。ローレンス様、私は貴方の事が好きになってしまいました。責任を取ってください」
「ああ……!」
彼は私を優しく抱きしめた。それはあの、私たちの魂が入れ替わった時の一幕を思い出させる。私は彼の腕の中で、もしかしたらあの時もう私はローレンス様に惹かれ始めていたのかもしれない、なんてことを考えた。
◆◇◆◇◆
私は結婚してアルダー子爵の妻になった。イレーヌ殿下が結婚のお祝いにと、金品と一緒に素晴らしい馬を送ってくださって、私はローレンス様に馬の乗り方を教わった。今では一緒に馬に乗って領地を走っている。
草原の匂いを胸一杯に吸い込みながら風を切って走るのがこんなに楽しくてワクワクするだなんてインドア派の私は知らなかった。ローレンス様が居なければこの幸せを生涯味わえなかったろう。
「あ、あそこに生えている薬草を取っていきましょう!」
「おう」
馬を降り、薬草を何種類か積む。ローレンス様も手伝ってくれる。彼もだいぶ採取の方法が上手になってきた。
「これは何に効くんだ?」
「えーとこっちは吐き気止め、こっちは揉んで湿布にすると火照った時の熱さましにいいですね」
「えっ!? それって」
あら、馬鹿で単純と言われていた彼も、だいぶ察しが良くなったのかしら。私は微笑む。
「多分ですけど、赤ちゃんが出来たかも」
「!!」
次の瞬間、私の身体はふわりと宙に浮く。
「えっ」
ローレンス様に横抱きにされたとわかり、彼の顔を見上げると眉間に皺をよせてちょっぴり怖い顔をしていた。
「馬鹿! なんで馬に乗っているんだ!! 大事にしなければいけないだろう」
まあ、初めて彼に馬鹿って言われたわ。
「大丈夫ですよ。大袈裟なんだから。降ろしてくださいな」
「だめだ。このまま家まで連れて行く。馬は後で取りにくればいい。俺の愛するリディアの身体と、お腹の子供が一番大事だからな」
彼はそう言うと私の頬にキスをする。私はそれをくすぐったく、でも温かくてとても幸せに感じながら、彼の首に手を回してキスを返した。