婚約者様、「君を愛することはない」と貴方が乗り込んできたせいで私と貴方の魂が入れ替わってしまったではないですか!責任を取ってください
「誤解とは? 私のどんな話を聞いたのですか?」
「え、あ、いや……それは、言えない」
彼は明らかに目を泳がせた。それを見てピン、と私の中にひとつの考えが浮かぶ。ああ、プライウッド男爵令嬢の事だからローレンス様に私の酷い悪口を直接吹き込んでいるのかもしれない、と。
他の女性達が流している噂程度のものならいいけれど……無いこと無いこと言われているのならちょっと困るわ。
「誤解ならきちんと説明して解きたいです。どのような事を聞いたのですか? それとも噂話?」
初めて私から距離を詰め、ローレンス様に近寄ると彼は慌ててじたばたしだした。
「いいじゃないか別に聞かなくても! どうせ誤解なんだから!」
大柄な彼がブンブンと振った手が薬剤を入れた棚にぶつかる。それは一度グラリと壁側に揺れたかと思うと、振り子のように戻ってこちらに傾いてきた。
「あっ!」
その棚には貴重な薬が!! 私は咄嗟に身の危険も顧みず、棚が倒れるのをダメ元で支えようと手を伸ばした。
「危ない!!」
私と棚の間にローレンス様が割り込む。私は庇ってくれた彼の頭に薬剤の入った瓶が次々と降りかかってくるのを見た瞬間、何でもいいから何かしなくては!とつい魔力を解放してしまった。
私の魔力の属性は精神系魔法だと言うのに。
ガラガラガシャーン!!
私達が床に倒れこむのとほぼ同時に稲妻のような激しい音が室内に響き、バシッと白い光が一瞬満ちた。恐る恐る薄目を開けてみると、辺りにはもうもうと煙が立ち込め、床には飛び散った液体と割れたガラスや陶器の欠片が散乱している。
あれっ、何故私は床を見ているの? ローレンス様が私を庇って一緒に倒れた時、私の顔は仰向けでローレンス様の胸しか見えなかった筈なのに。と、自分の腕の中に自分の顔があるのを見た。
「えっ!?」
思わず驚きの声をあげると、それはいつもの自分とは全く違う太く低い男性のもの。更に驚きの声が出てしまう。
「えっ!? あっ、えっ……」
私の声に応じて、目の前のリディアがキツイつり目をパチリと開け、そのまま大きくまん丸になった。
「えっ!? な、なんで俺が二人!? リディア嬢は一体どこに? 無事なのか!?」
私の身体に似つかわしくない大声と大きなリアクションでじたばたする姿を見て、私はようやく事態を飲み込めた。ああ、そういうことか。
「ローレンス様、どうやら私たちは魂が入れ替わってしまったようです」