婚約者様、「君を愛することはない」と貴方が乗り込んできたせいで私と貴方の魂が入れ替わってしまったではないですか!責任を取ってください
彼は立ち上がって2~3歩ドスドスと男らしく歩いてから「おっと、いけない」と歩き方を改めた。すっと背を伸ばし、ちゃんと内ももに力を入れて淑女らしく綺麗な歩き方をする。
「まあ、もう歩き方もマスターされましたの?」
ローレンス様とセーラは同時に得意げな顔をした。
「まあな、俺は美しい女性を何人も見て来たからこんなの簡単だ!」
「私の教え方のたまものです!」
「ああ、セーラの『馬に乗る時の様に足の内側に力を入れろ』ってのはいいアドバイスだった……あ!!」
最後にとんでもなく大声を出されたので、セーラが「お嬢様の姿ではしたない!」と怒る。
「すまん、だがマズいぞリディア嬢!! 今週末は友人たちと馬で遠乗りをする予定だったんだ。今思い出した!!」
「え!? そ、それは無理です!」
元々インドア系の私は馬になんて数回しか乗ったことが無い。それもお父様やお兄様が相乗りしてくれただけ。一人で馬に跨るなんて!
「急いで断りの連絡を入れてください! 体調不良とか何かで!」
「無理だ! 俺は今まで3日以上寝込んだことがないから今から週末まで体調不良なんて誰も信じてくれない!」
このめちゃくちゃ健康優良児め!!!
「え、えーと、じゃあケガをした事にすればいいじゃないですか。頭にガラス瓶が落ちたのはホントの事ですし!」
「そうだな。軽症だが頭を打ったから念のため馬は乗らないでおく、という事にしよう」
ローレンス様はそう言うとさらさらと手紙を書いて友人に出された。ふう。これで一安心だわ。
……と思ったら、そうは問屋が卸さなかった。彼の友人から返信がオーク伯爵家宛に来たのだ。
「な、なんでアルダー伯爵家じゃなくてこっちに直接返信が来るんだ!?」
「……ローレンス様、手紙は我が家の使用人が代行で運びましたけれど……まさか、便箋もオークの家紋が入ったものを使ってませんよね?」
「あっ」
ローレンス様は頭を抱えた。ああもう、うっかり屋さんなんだから!
「どうしよう……フィンリーから『遠乗りから帰った後にカードかチェスでもしながら一杯飲もうぜ』って」
「それも断ればいいじゃないですか」
「『飲むのも無理なくらい大変なら、そっちに見舞いに行く』とも書いてある」
「そっちって……」
オーク伯爵家に来るつもり!? 確か彼の最も親しい友人のひとり、フィンリー・ウォルナット様は名の知れた侯爵家のご令息だ。普段はわざと目立たぬようにしているため伯爵家としても力をあまり持たない我が家より、かなり格上の家の人間の訪問を無下には断れない……。ローレンス様は私を拝むように頼みこんできた。
「頼む! 上手く俺のふりをして一杯だけ付き合ってきてくれ!」
「えええ……」