婚約者様、「君を愛することはない」と貴方が乗り込んできたせいで私と貴方の魂が入れ替わってしまったではないですか!責任を取ってください
4 「アルダー家の問題児」
◆◇◆◇◆
「おいおいおい、どういうことだよ?」
一人では不安すぎたので、フィンリー様と少しは面識のあるお兄様と共にウォルナット侯爵家を訪れると、フィンリー様はすでに出来上がってるご様子でお酒のグラスを片手にご機嫌でいた。
「ついこないだまで婚約は考え直すって話をしてたんじゃないか? それがどうだ。向こうの家に連日泊まり込むとは!」
「い、いや……その、俺がリディア嬢の研究室で怪我をしたから、オーク伯爵家の人達が責任を感じて『完治するまで面倒を見させてくれ』って言って聞かなかったんだよ」
なんだか直感的に、この人にはあまり言わないほうが良い気がして仲良しアピールはやめておいた。けれど。
「おい、照れてんのか? お前の家族にも確認したぞ。『リディア嬢と一緒に過ごしたい』って言ったらしいじゃないか」
もうそっちまで訊いてたのか! 彼の嗅覚の鋭さと行動力を甘く見てはいけないと背中が寒くなる。
「いやぁ、それは……うちの母が彼女を気に入ってるからリップサービスみたいなもので」
「あ? なんだつまんねぇなー。ま、一杯飲め。お前の大好きなやつだ」
グラスに蒸留酒をストレートで注がれ渡される。ううっ、私お酒弱いのに。でも飲まないと疑われるよね? フィンリー様と乾杯し、覚悟してグイッと飲む。濃いアルコールが喉を焼いた。
「……あれ?」
美味しい? あっ、そうか。お酒が弱いのは私の魂ではなく体質。ローレンス様の身体はお酒に強いんだ!
「ははっ。やっぱりお前は良い飲みっぷりだなぁ」
フィンリー様はご機嫌でお代わりを注いでくれる。私たちはチェスをしながらお酒を飲み続けた。
「俺さぁ、心配してたんだよ……。俺だけじゃないぞ。今日の遠乗りのメンバー全員心配しててさ……。でも喜んでもいたんだよ。やっとお前にも春が来たんじゃないかって」
酔いが回ってトロンとした目でチェスの盤面を眺めながらフィンリー様が言う。
「春?」
「今回の事だよ。お前さぁ、最初の婚約がダメになって以来、ずっと上手くいかなかっただろ……?」
「ああ……」
なんとなく話は聞いている。ローレンス様は昔、幼馴染の伯爵令嬢と婚約を結び、いずれは婿入りする予定だったのだそう。ところが彼女が16歳でデビュタントボールに出た時、とある男やもめの公爵に見初められてしまった。
家格も財力も遥かに上の相手に幼馴染もその家族も舞い上がり、ローレンス様との婚約を正式に解消して公爵の後添えとして結婚してしまったのだそう。
勿論ローレンス様には何の瑕疵もないし、慰謝料も公爵から払われた。だから次の婚約者候補もちゃんと見つかった。
けれどいよいよ正式にその相手と婚約を結ぼうとなった段階で、長年その女性を想っていたという別の男性が現れて、女性も彼の事を憎からず思っていたらしい。それでローレンス様は「二人が幸せになるなら」と身を引いてしまったそうなの。