婚約破棄された脇役令嬢は、隣国の皇太子の胃袋を掴んで溺愛される
 そんなケイティの心配に気付きもしない私は、意気揚々と家の中に入っていく。ほとんど使われていなかったようで、中では埃が舞っていた。


「ケイティ、まずはお掃除からね! 早速始めましょう!」

「お嬢様は座って休んでいてください! 私が掃除しますので」

「そういう訳にはいかないわ。これから私達二人の住まいになるんですもの。それに、私は水魔法が使えるから、掃除ですごく役に立てると思うの」

「そう言われてしまいますと……」


 土魔法が使えるケイティからすると、掃除や洗濯をするにも川に水を汲みに行くか、水魔法使いの力を借りるしかない。

 公爵家の使用人に水魔法を使える者が多いのも、それ故だった。彼女が土魔法使いでも私の専属侍女となったのは、とても優秀だからだ。


「申し訳ないのですが、お嬢様のお力をお借りできると嬉しいです」
「そうこなくっちゃ! 早速綺麗にしましょう!」
「……お嬢様、ものすごく楽しそうですね?」
「えぇ、とっても」


 にこりと笑顔を向ける。早速、荷物の整理や雑巾掛けから始めていった。そして、私は無心で雑巾掛けをしながら、前世のことを思い出していた。


***


 前世の私、高梨えりなは、毎日社畜のごとく朝から晩まで働いていた。

 週末は平日の疲れがドッと出て半日は動けなくなっていたものの、午後になると家を掃除したり、溜まった洗濯物を干したりするととても清々しい気持ちになった。

 綺麗になった部屋で美味しいお茶とお菓子を用意して、当時話題になっていた乙女ゲーム「聖女マリアと魔法の国」をプレイするのだ。
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