婚約破棄された脇役令嬢は、隣国の皇太子の胃袋を掴んで溺愛される
そう言ってフォークに刺した唐揚げを差し出す。カイ様は『そうじゃない』とでも言うように、受け取ろうとしない。口をぱかっと開けて、唐揚げがやってくるのを待っている。もしかして……
「もしかして、食べさせてほしいのですね? もう、カイ様は甘えん坊ですね」
仕方ないなぁ、と思いつつ、ついつい私も甘やかしてしまう。
皆平静に見えて、実際は濃い瘴気と連続の退治で、体力だけでなく精神的にもすり減っているはずだ。
もうすぐ魔窟の最深部にも到達するし、その前に少しでも休むことは大事だと思っていた。
「カイ様、そろそろ最深部ですね。魔獣の王はどのような姿なのでしょうか……確か、全ての基本属性の魔法が使えるのはもちろん、闇魔法も使えるのですよね?
私、闇魔法を実際に見るのは初めてかもしれません」
「そうだな……魔獣の王が現れるのは数百年に一度で、ましてやマリン帝国は常に聖女がいるから、もはや伝説の存在に近いな」
「そうなのですね。魔獣の王が伝説に近しくなっても、やはり聖女の存在が重視されているのですね」
「あぁ、それはどこの国でも共通していると思う。今回キアラ王国では聖女を異世界から召喚したが、我々の国では国民から生まれることも多いんだ。昔は異世界から召喚したこともあったようだけど」
「まぁ、そうなのですね。国民から、光魔法が扱える聖女が生まれることもあるのですね」
「あぁ、しかもそれは貴族に限らない。孤児院出身の女性が聖女になったこともあるんだ」
「もしかしたら……」
私はマリア様の手前、声を顰めて会話を続けた。