婚約破棄された脇役令嬢は、隣国の皇太子の胃袋を掴んで溺愛される

「彼女が聖女ではなく一般市民である以上、私も無理に結婚を推し進める理由がない。強いて言うなら、エリアナと婚約破棄してまで乗り換えたくせにと周りから非難を受けるかもしれないが……。
 国王の了承を得た上で、私は婚約を破棄しても構わないと彼女に伝えた」

「そうだったのですね」


 クリス様は「ハァ」と溜息をつきながら、「全く、私は本当に駄目な王太子だな」と呟いて視線を落とした。

 いつも自信満々なクリス様が珍しく弱っている様子で、こんな彼を見るのは初めてだった。

 ……いや、もしかしたら、こういう一面は以前からあったのかもしれない。私はマリア様の一件もあり、人の表面的な部分しか見れていなかったと反省していた。


「それで、マリアには自分の元いた世界に戻りたいか、確認をした」

「まぁ……! と言うことは、戻れる可能性もあるということですか?」

「あぁ、無いことは無い。一定の条件が全て揃えば……まぁそれもかなり難易度が高いのだが。あと、元いた世界に戻ったとして、時間軸がどれくらいズレているのかは保証できない。
 こちらの世界に転移した日の次の日かもしれないし、一年後かもしれないし……何十年も経っているかもしれない。そうなると、住んでいた場所も、家族もいないかもしれない」

「そうなのですね……マリア様はどうされるのですか?」

「それを聞いて、かなり悩んでいた。まだ決めかねているようだ。良ければ、エリアナに彼女の相談相手になってもらえたら嬉しい」

「……私が聖女となってしまった今、マリア様は会いたくないのではないでしょうか?」
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