婚約破棄された脇役令嬢は、隣国の皇太子の胃袋を掴んで溺愛される
「いや、とても喜んでいたよ。エリアナがこの世界を救ってくれたと。複雑な気持ちでないかと言えば嘘ではないが、食を通して市民を幸せにしてきたエリアナだからこそ、光魔法が与えられたんじゃないか、と」
「そうおっしゃっていたのですね……」
こちらの国の都合で勝手に召喚して、聖女ではなかった……そんなマリア様に対して、クリス様も罪悪感を感じているのだろうか。
婚約を破棄しても構わない、と彼女に伝えたと言っていたけれど、少なからず彼女に対する愛情も芽生えていたんじゃ無いかと感じた。
「クリス様がお話したかったのは、マリア様の件だけですか?」
「いや……エリアナ、もう一つの件がメインなのだが……」
クリス様は少し言いづらそうにしており、私は首を傾げる。一体何の話だろう?
「……もし、カイ殿が目覚めなかったらどうするのだ?」
「え……」
そんなことを問いかけられて、想像したくもないことが頭の中に映像として掠める。
カイ様がこのまま目を覚まさず、大泣きする私。生きている心地がしない毎日に、何年も、何十年も彼を思いながら生きていく自分……。
考えただけで血の気が引くようだった。
「そんな……ことは、考えたくも無いです」
「……私と、もう一度やり直さないか?」
「え?」
突然の提案に、目を白黒とさせてしまう。冗談なんかではなく、クリス様の目は本気だった。でもーー。
「それは……私が聖女だから、ですか?」
「そうではない。この間、君がカイ殿に連れて行かれるのを見て、やっと気付いたんだ。私は、いつだって君の気を引きたかったんだって」