婚約破棄された脇役令嬢は、隣国の皇太子の胃袋を掴んで溺愛される

「それは、マリア様と婚約したのも、異物混入騒動も……魔法学園にいた頃も、ですか?」

「あぁ、今となってはそうだな。本当に私は情けない男だ……そういうことでしか、君の気を引けないと思っていたのだから」

「そんな……」


 クリス様がそんな風に思っていたなんて……。カイ様と出会う前にその本音を聞いていたら、私達の関係ももう少し変わっていたのだろうか? でも、それはもう実現しなかった過去のことだ。


「もし、カイ様が目覚めなかったとしたら……私はカイ様以上に、誰かを好きになることは難しそうです。なので、その時はカイ様を想いながらひっそりと生きていきます」

「……そうか、やはり駄目か」


 そこまで本気では無かったのか、クリス様は特に驚くような素振りも見せない。


「エリアナが魔獣の王から攻撃を受けそうになった時、私も走り出したんだが……カイ殿の速さには驚いた。自分の命を差し出すことに、一切の迷いがなかったからな。あれでは私も負けだ」

「そう感じられたのですね……」


 カイ様が目の前に盾となってくれたことを思い出し、目頭に熱いものが込み上げてくる。溢れ出そうな感情を、私は必死に堰き止めた。


「君の気持ちもよく分かった。ただ、もしマリン帝国に嫁いだとしても、定期的にキアラ王国には浄化に来てほしい。
 いくらサタンが弱体化して影響が少ないとはいえ、魔獣が消滅することは無いからな。あと奴がどれくらいで力を取り戻すかも未知数だ」

「えぇ、もちろんです。母国のためですから」

「ありがとう、エリアナ」


 クリス様と私は、お互い穏やかな気持ちで話せたと思う。そして、私はカイ様の様子を見に応接室を後にしたーー。



***
< 130 / 138 >

この作品をシェア

pagetop