婚約破棄された脇役令嬢は、隣国の皇太子の胃袋を掴んで溺愛される

 ずっと聞きたかった愛しい声が、私の名前を呼んでいる。

 あまりにも動揺してしまい「あ、だ、誰か呼びに行かないと」と立ちあがろうとした時だった。カイ様に手をぎゅっと引っ張られる。


「待っ……すまない、水を」
「あ! ごめんなさい、水こちらです!」


 久しぶりに声を出すカイ様に、コップに入った水を差し出す。それを飲み干すとコップを置き、私に近くに座るよう促した。

 そして、ぎゅっと抱きしめられる。カイ様の体温と香りが、生きていることを改めて証明している。
 私は堪らず、ぼろぼろと涙をこぼし始めた。


「うぅ……カイ様、生きてて良かった……」

「待たせてすまない、長いこと寝ていたんだよな?」

「あの戦いから1週間経ちました」

「そうか、その程度で済んだのは……もしかして、エリアナの光魔法のお陰かな?」

「え? どうして分かったのですか? だって、光魔法が発現する前にカイ様は倒れたのに」

「以前、君が料理をしている時に『まるでマリン帝国の聖女が放つ、光魔法を見ているようだ』と言ったのを覚えてる? 今回あの魔獣の王に勝つためには、君の力が目覚めることが不可欠だと思っていたんだ」

「まぁ……! もし目覚めなかったらどうするつもりだったんですか!? 本当に死ぬつもりで……?」

「勝負ごとには強い方だが……危険な賭けだったかな?」

「もう〜〜〜カイ様のバカバカっ もう絶対そんなことしないでください!!」


 ニコニコしながら抱きしめるカイ様に対し、私は泣きながら彼の胸板をぽかぽかと叩く。
 すると、カイ様に涙の跡をぺろりと舐められ始めた。


「カイ様、だ、だめです! 恥ずかしいから……」
「エリアナ、可愛い。また顔が真っ赤だ。それに誰も見ていないから、大丈夫」
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