婚約破棄された脇役令嬢は、隣国の皇太子の胃袋を掴んで溺愛される
「どうですか?」
「ん、このオリーブパン、オリーブの香りと程良い塩味でとても美味しいよ」
「フフ、良かったです! 試食ありがとうございます」
「これからも、エリアナの作るパンの最初の試食係は私だと嬉しいな」
今日も優しい笑顔で、甘えてくるカイ様。
そんな彼に絆されてしまっている訳なのだが……でも、これからは皇太子妃になるのだから、飴と鞭は使い分けが必要なのかもしれない。
「カイ様、そろそろアンディが迎えに来るのではないですか?」
「ん、あぁ、それはまずいな……」
「あ! カイ様!! 見つけましたよ、やっぱりこちらにいらっしゃったんですね!」
紙の束を持ったアンディが、息を切らしてキッチンの入り口に立っている。カイ様は、また執務の途中で抜け出してきたのだろう。
「カイ様、すぐに仕事を終わらせて下さるのは良いのですが……突然『休憩だ!』と言って消えないでください」
「どんなに早く仕事を終わらせても、アンディはすぐに新しい仕事をたんまり持ってくるからなぁ。エリアナの作るパンを食べて休憩したくなってしまうんだ。美味し過ぎるのも、罪だな」
「カイ様ったら、食いしん坊ですね! 後ほどお菓子とお茶を執務室に持っていきますよ?」
「本当か? よし、もう少し仕事を頑張るか」
「……エリアナ様、ありがとうございます。カイ様の手綱を握って下さって感謝します」
そこでふと、カイ様が何かを思い出したようで立ち止まった。