婚約破棄された脇役令嬢は、隣国の皇太子の胃袋を掴んで溺愛される
乙女ゲームをプレイしていた時は色んな男性キャラが登場したが、私は『王太子推し』というわけでも無かった。『箱推し』とでも言うのだろうか。
どのキャラもそれぞれ良さがあったと思う。でも強いていうなら、あのキャラとは一度会ってみたいのだが……。
「エリアナ、今何を考えてた?」
「え! あ、ごめんなさい、色々と考えを巡らせておりました」
「そう? 他の男のことでも考えてるのかと思った」
(何で考えてることがバレてるの!?)
思わず「ヒッ」と声が出てしまいそうになるが、それでは「そうです、他の男性のことを考えてました」と認めるようなものなので、務めて平静を装った。
カイ様は、揶揄うような視線をこちらに向けている。
「すみません、何を売るか集中して考えますね」
「あぁ、まずは何種類か売ってみて、反応を見ながら売るものを変えても良いかもしれないな。エリアナの負担は増えてしまうが……」
「確かにそれは良いですね。メニューは固定にせず、お客様の反応を見ながら変えていくことにしますね」
その後はひたすら生地をこねて、色々なパンを作っていった。カイ様は私のパンを作る工程を見て、改めて感心したように言った。
「パンを作るというのは、こうも手がかかるんだね。我々には魔法や魔道具があるし、こうやって手間をかけて何か作る、という考えが欠落していたような気がする」
「フフッ そうですよね。でも、こうやって無心になってパン生地を作るの、すっごく楽しいですよ」