婚約破棄された脇役令嬢は、隣国の皇太子の胃袋を掴んで溺愛される

「フッ すみません、つい笑ってしまいました。カイ様ともあろう方が、こんなに慎重になるとは。私が仕えてきた中でも初めてでは?」


 弱点を見つけた、とでも言うように『ニヤリ』と口の端を上げるアンディ。

 学園にいた頃から私がエリアナに片想いしていたことを知っているから、グラニットで再会してすぐに想いを伝えるとでも思ったのだろう。

 早く伝えたい気持ちと、失敗したら絶望する……という気持ちの両方が混在していて、まだエリアナに自分の想いを伝えられずにいた。


「あ、カイ様。今日パンの販売時に、遠くからこちらを見ている怪しい奴がいたと思うのですが」

「あぁ、アイツな。クリス王太子の差金か? 何もしてこないと良いが」

「はい、私もその男については調べておきます。聖女様の件も上手くいっていないようですし、何より王太子殿下はエリアナ様にまだ未練があるかと」

「自分から捨てておいて、良いご身分だな。エリアナは絶対に渡さない」

「……それは、早く恋人になってから言ってください」

「ハハッ アンディ、お前、結構厳しいな?」


――その後も、エリアナは連日、グラニットの住民に向けて移動販売でパンを売り続けた。噂が噂を呼び、並ぶ列がさらに長くなっていった。

 そして、移動販売を始めて1週間後。突然、事件は起きた。


***
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