婚約破棄された脇役令嬢は、隣国の皇太子の胃袋を掴んで溺愛される

 そう言って、脱衣スペースの扉を閉めた私は、一目散で自室に戻る。戻った途端、その場でへなへなと座り込んでしまった。

 頭の中はパニックで、ブツブツと独り言が止まらない。


「え、何、あの溢れ出る色気は……!? 色気に当てられて、クラクラしちゃうわ……。
 あれ? そういえば、あんなスチルが乙女ゲームでなかったっけ? えぇっと、そう! クリス王太子のオフショットだわ! 『水も滴る良い男スチル』!!

 でも、クリス様のオフショットより圧倒的にカイ様の方が色気が溢れ出てた……目の前で本物を見ちゃったからかな? それに『可愛い』って言ってたし、『おやすみ』は耳の真横で言われるし、もう何あれ反則でしょ……」


 前世では大して恋愛もせずに死んでしまったから、こういう時にどういう態度を取るのが正解なのか分からなかった。

 というか、これが恋心なのか、突然の事故でドキドキしているのか……多分、後者だろうと言い聞かせるように結論づけたのだった。


***


 次の日の朝。

 今日は三人で朝食を食べていた。準備をしている時、あまりにも私の動きがぎこちなくて、ケイティは何か勘付いているようだった。


「お嬢様、何かありましたか?」

「えっ!? あ、な、何も無いわよ! 寝る前に読んでいた本が面白くて、つい夜更かししてしまって寝不足なの」

「そうですか、なら良いのですが」


 実際、昨日はあまり眠れなかった。そこにカイ様が登場して、さらに動きがぎこちなくなる。カイ様が何かをボソッと言っていた。


「これは俺にもチャンスがあるということかな?」
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