婚約破棄された脇役令嬢は、隣国の皇太子の胃袋を掴んで溺愛される
第9話:回想 sideカイ
「アンディ、あの中庭で本を読んでいる令嬢は……エリアナ嬢か?」
「えぇ、クリス・ハートレイ王太子の婚約者、エリアナ・エンフィールド公爵令嬢ですね」
「彼女は今日も、こうやって休み時間に本を読んで過ごしているのだな」
この時、私はキアラ王国に1年間、留学生としてやってきたばかりだった。魔法学園では本名のカイル・フェザーではなく、偽名のカイ・クロフトで通し、一般生徒として過ごしていた。
偽名で滞在していることを知っているのは、学園長や国王など、ほんの一握りの人間だけだ。
皇太子だからと言って特別扱いされたくなかったし、爵位が分からない相手にどう対応をするのか、相手の本質が見えるような気がしていた。
留学してすぐに、クラスメイト全員の名前と顔が一致していたかというと、そうでもない。でも、エリアナのことはすぐに覚えたし、こうやって姿を見つけると、つい何をしているのか気になってしまうのだった。
「この間は魔法学に関する本を読んでいたと思うが、今日は……あぁ、異国の料理の本でも読んでいるのか。ニヤニヤしながら読んでいるじゃないか。フッ 本当に面白いなぁ」
「キアラ王国は食文化が発展していませんからね。あの本は最近出版されたばかりですし、目新しいのかもしれません」