婚約破棄された脇役令嬢は、隣国の皇太子の胃袋を掴んで溺愛される

「彼女、魔法の授業の時はものすごく真剣なんだぞ? ああやって表情が崩れる隙なんて、一分たりともないんだ。それなのにこの差は何なのだろうな、ずっと見ていられるよ」


 以前、水魔法の授業でエリアナと手合わせをしたことがある。

 王太子妃教育の傍ら、魔法についても鍛錬してきたのだろう。コントロールの筋の良さからそれが感じられた。

 手合わせの後、たまたま二人で話した時に、彼女が火魔法まで扱えると聞いて驚いた。私は褒めたのだが、エリアナは控えめにこう返してきた。


「クリス様が使えるのは火魔法だけでして、私が2つ扱えたとしても褒めて下さることはないのです。なので、そう言って頂けるととても嬉しいです。ありがとうございます」


(あの王太子は何と器が小さいのだろうな……二つ目の魔法は、彼女が努力して後天的に身につけたものだろう。それを褒めもせず、才能を抑え込むようなことをして……)


 私は幼少期から水魔法が使えたが、風魔法は鍛錬の末、後天的に身につけた。

 もちろん、努力すれば必ず身につけられるかというとそうでもないのだが、魔法が一つでも使える者であれば体得しやすい。


 私はさらに三つ目の魔法を身につけられるよう今も努力しているし、接近戦に備えて日々、体の鍛錬も欠かさない。

 その時のことを思い出し、つい思ったことが口を滑って出てしまった。

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