婚約破棄された脇役令嬢は、隣国の皇太子の胃袋を掴んで溺愛される
 込み上げる嬉しさに顔がニヤけそうになってしまう。だって、血の滲むような王太子妃教育の日々は、本当に大変だったから。

 それらをこなしながら、魔法学園でも良い成績を残さなければならなくて。

 その他にも王家のしがらみ、他の貴族令嬢からの妬み、嫉妬などの全てから解放されると思ったら、『婚約破棄』は素晴らしい提案なのかもしれないとさえ思い始めていた。


(あぁ、ニヤニヤしちゃダメだわ。今の私は貴族令嬢、はしたないことはできない)


 姿勢を正し、クリス王太子に向き直る。


「クリス様。婚約破棄、承知いたしました」

「へ? そんなにあっさり……いや、承知してくれて礼を言う。聖女マリアはこの国で唯一の存在だからな」


 私は既にこれからのことで頭が一杯で、クリス王太子の話をあまり聞いていなかった。


(お父様の耳に入る前に、早く公爵家に戻って家を出る準備をしないと。着の身着の儘、追い出されるのだけは勘弁してほしいし……

 あ、せっかく自由なセカンドライフが送れるなら、前世で大好きだった料理も沢山やりたいわ! 使ってなさそうな調理器具ももらって行ってしまいましょう!)


「レオン、急いで帰りましょう!」

「え、お姉様!? あんなにアッサリ承知して良かったのですか?」

「善は急げ、ですわ!」

「えぇぇ!?」


 驚くレオンと、肩透かしを食らったような顔をするクリス王太子、この場の状況に困惑が隠せていない聖女マリアを横目に、私は一目散に会場を後にした。
< 6 / 138 >

この作品をシェア

pagetop