婚約破棄された脇役令嬢は、隣国の皇太子の胃袋を掴んで溺愛される

(コンフィなんて時間のかかる低温調理、魔道具でも使ったのかしら? やっぱり一般市民が食べていないようなものを、普段から食べているのね……!)


 先ほどまで聖女マリア様と男性陣の関係が気になっていたのに、今では料理のことが頭の大半を占めている。

 しかし、突然クリス様に声をかけられて、無理やり意識が戻された。


「お前達は……以前から王家の侍女として働いていた者か? 見たことがない顔だな」

(ぎくぅっ!)


 飛び上がりそうになるが、そこは王太子妃教育の賜物だろうか。顔には一切出さずに答えた。


「いえ、今回臨時で採用されました。私はオフィーリアと申します、王太子殿下」

「そうか。オフィーリア、お前はマリアと歳が近そうだな。この後彼女の話し相手になってくれないか? まだこの国に来て日も浅く、知り合いもいない」

「わっ、私が、ですか?」

「不満か?」

「いえ、滅相もございません。私で宜しければ、喜んで」


 笑顔が引き攣りそうになるが、王太子の命令を断るなんてもっての外だ。潜入捜査と言って意気込んできたが、まさかここまで接触できるとは思いも寄らなかった。

 果たして、エリアナだとバレずに会話できるだろうか……。

 ケイティも不安そうな顔でこちらを見ていた。


 その後、指定された部屋に向かうと、聖女マリア様が待っていた。


「マリア様、初めまして。侍女のオフィーリアと申します。王太子殿下の命により、参りました」
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