婚約破棄された脇役令嬢は、隣国の皇太子の胃袋を掴んで溺愛される
 同じ会場にいた卒業生からすると『婚約破棄をされたショックで急いで出て行った』と思われたのかもしれないが、事実は全く違う。

 最早、どう思われているかさえも気にしていない。

 確かに王太子に婚約破棄された令嬢など、同じ年代の男性との結婚はもう難しいだろう。

 あてがわれるのは訳アリで結婚できない男性か、とうの昔に婚期を逃してしまったお年を召した男性か……前世の記憶を思い出す前の私であれば、泣いて打ちひしがれていたかもしれない。


 でも、私は前世の記憶を思い出してしまったのだ。これまでの「エリアナ・エンフィールド公爵令嬢」とは違う。

 これからこの国で何が起こるのかも、大方把握している。


 会場に向かう時は「クリス王太子にエスコートしてもらえない……」という事実で重い空気だったことが嘘のように、帰りは意気揚々とした足取りで公爵家に戻って行った。

 その様子をレオンはとても不思議に思いながら、私の顔を見ていたのだった。


ーーそして、この会場で婚約破棄の場面を見ていた男・マリン帝国の皇太子であるカイル・フェザーにとっても、今回の婚約破棄は「僥倖」だった。


「フッ、面白いことになったな。よし、アンディ行くぞ。エリアナ嬢の後を追うんだ」

「ええ、かしこまりました。カイル様」

「おい、この国では“カイ“と呼んでくれ。特に今日のような人が多い場所では」

「失礼致しました、カイ様。では、参りましょう」


 護衛騎士のアンディと共に、カイルは急いでエリアナの後を追っていった。


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