婚約破棄された脇役令嬢は、隣国の皇太子の胃袋を掴んで溺愛される
「あぁ、万が一何かあったら、そのネックレスで知らせて欲しい」
「はい」
そうして、私とケイティは早速市場に繰り出した。
以前行ったグラニットの市場とは違い、新鮮な魚介類やマリン帝国から一部輸入した香辛料も並んでいた。
「いらっしゃい! お嬢ちゃん達、何か買い物かい?」
「えぇ! 今日メーアに到着したばかりなので、まずはどんな物があるか見に来たんです!」
「そうかい、ここら辺は新鮮な魚がいっぱいで、みんな刺身にして食べることが多いんだ。王都の方まで運ぶと、どうしても鮮度が落ちるから焼き魚になっちまうみたいだけど」
「確かに王都で魚と言ったら、ほとんど焼き魚ですねぇ! あら、あの方は……?」
並んだ魚介類を前にうろうろしながら、色んな人に「これはどう調理をすれば良いんだ?」と聞いている人がいた。
焦っている様子から、何かあったのだろうと察してつい声をかけてしまう。
「あの〜何かお困りですか?」
「え、あぁ……実はこの街で宿を運営しているんだが、そこに急遽、王太子殿下や聖女様が滞在することになっちまって。
うちで出す飯なんて刺身か焼き魚か、あとはパンとスープくらいだから、凝った料理なんて出せなくて困ってるんだよ」
「まぁ。王家専属の料理人は一緒にいらっしゃらないのですか?」
「何でも、王都では焼き魚が中心だから、王都では食べられないような魚料理が食べたいんだとか。ったく、そんなこと急に言われても困るんだよなぁ……」
「色々と要望があるのですね」
前世でプレイした乙女ゲームでは、クリス様が食事にこだわる場面なんて一度も出てこなかったと思うのだが……。どういうことだろう? と首を傾げて、ケイティと顔を見合わせてしまった。