婚約破棄された脇役令嬢は、隣国の皇太子の胃袋を掴んで溺愛される
「そうだな、最近本当に物騒だよな。あ、でもこの宿に来てるのって聖女様なんだろう? 早くなんとかしてくんねーのかな」
異世界から召喚された聖女マリアが、まさか『無属性』であるとは誰も思うまい。それを知っている私たち四人は、神妙な面持ちで目を合わせた。
その時、突然キッチンの扉が開いて皆の視線が移る。そこにいたのは……
「やっぱり、エリアナだったのか!!」
「えっ!? クリス様?!」
突然の王太子殿下の登場に、料理人の二人は急いで頭を下げる。クリス様のすぐ後ろには、マリア様もいた。心なしか、私を見つめる目がキラキラと好奇心で輝いているような……。
さらにその後を追うように、息を切らしてジャンさんが走ってきた。
「王太子殿下、何もキッチンに突撃されなくても……」
「お前が本当のことを言わないからだろう? 王家に対する不敬だぞ?」
「申し訳ございません!!」
平謝りするジャンさん。でも、ジャンさんは何も悪くないし、『レシピを伝授した』というのも嘘ではない。
「クリス様、ジャンさんにレシピを伝授したのは本当ですし、何も嘘はついておりませんよ?」
「しかしだなっ エリアナ、一体君は何が目的なんだ? まさか、料理に何か入れたのか?」
「まぁ! 私がクリス様を陥れようとしている、と思われたのですか? 滅相もございません! 『王太子殿下から、ここでしか食べられない魚料理を食べたいと数日前に言われた』とかで、とても困っている様子のジャンさんを助けてあげたいと思っただけでございます」
「そ、それはっ……カイ殿に挑発されて、私も美味しいものが食べたいと思ってしまったのだ」