婚約破棄された脇役令嬢は、隣国の皇太子の胃袋を掴んで溺愛される
「……カイ様が原因なのですか?」
カイ様は『はて、何のことかな?』とでも言うような顔つきで、目を逸らしている。隣にいたアンディがコホンと咳をした。
「エリアナ様、カイ様が王太子殿下に『エリアナ嬢が作るパンやご飯は本当に美味しいので、急いでまた食べに行かないと』とおっしゃったのは事実です」
「カイ様ったら、本当に私が作るご飯が好きなのですね!」
「お嬢様、感心する所がちょっとズレてます……」
そんなやり取りをしていると、マリア様がおずおずと会話に割って入ってきた。
「あの、エリアナ様……!」
「はい、マリア様。どうされましたか?」
「私、以前いた世界で食べたような美味しい料理を食べられて、本当に感動しました……!! もちろん、王家専属の料理人が作るものも美味しいのですがレパートリーが少なくて。
私、この世界に来るまでは食べるのが好きでも料理は全然出来なかったので、最近ではもう諦めてました。ですが……エリアナ様に、すっかり胃袋を掴まれてしまいました!」
「まぁ、マリア様まで!」
マリア様の熱弁に驚いていると、遅れて騎士団長のレオナルド様、魔法使いのニール様、神官のアンジェロ様もやってきた。
「まさか、エリアナ・エンフィールド公爵令嬢が料理長だったとは。驚きました」
と、言うのは魔法使いのニール様。そしてレオナルド様が視界に入らないようにしたいのか、カイ様が私の前に立つ。
「皆さん、温泉宿でお会いして以来ですね。エリアナ嬢はレシピ提供や現場の指揮を取っており、とても疲れております。今日の所はこの辺で、失礼いたしますね」