ハロウィンの悪魔
その解放感がとても気持ち良くて、社会人になってからもこの日だけは必ず有休を取り、一年かけてきた貯金をはたいて思い切りお洒落をして堂々と外を歩き、そしてお祝いとばかりに豪華なホテルに泊まる。
声をかけてきた男と行きずりの恋を楽しんだ事もある。
栞にとってはこの日だけが唯一、理性を解放できる日なのだ。
そんなこんなで今年の誕生日も栞は都内の高級ホテルを予約した。
30歳という節目を迎えた事もあり思い切っていつもより豪華なプランにした。
朝からブランド店や美容院、エステを梯子してこれでもかと自分を甘やかし、大好きなフレンチに思う存分舌鼓をうって満足し、今は最上階の宿泊者だけが利用できるバーラウンジに来ている。
あとは部屋に戻って広いジャグジーバスにゆったりと浸かって眠るだけなのですっかり気が抜けていた。
だからだろうか、よほどガードの緩い女に見えたのか寄ってきた美丈夫に声をかけられ、それがあまりに好みだったので自分から部屋へ誘い、そのまま夜を共にしてしまった。
それが悪手だったと気付くのはその数ヶ月後の事だった。