ハロウィンの悪魔




そのまま口をつぐんで開かない栞に、界斗は困ったような表情を作り、少しだけ首を傾げた。


「泣くほど悩ませちまったのは悪いが…俺は別に傷付いてないぞ」
「…え?」


ゆっくりと顔を上げれば、界斗は栞の頬に添えていた手を離し、そのまま自身の前で腕を組んだ。


「そりゃこっちの都合ばっか押し付けられたら迷惑だよなって、そん時自覚した。ハッキリ言ってくれて助かった」
「……え、」
「そもそも、そう簡単に落ちてくれる女だとは思ってなかったからな。ひとまず言われた通り連絡は断つことにしたが今後どうしていくかは目下検討中だ」
「……。え、え…?」


なんだかいまいち会話が噛み合ってない気がして、気付けば涙も引っ込んでいた。


「あとこんなとか本当の姿とか言ってるけど、俺にはずっと同じ女に見えてたからな」
「っ、そんなわけ、」
「俺は言ったぞ。朝比奈は良い女だって」


その言葉にハッとする。

初めてそう言われたのが、今の栞の姿だったこと。

架空の女を自分に重ねていたのでなく、ずっと栞自身を見てくれたこと。


界斗は最初からずっと、栞のくだらない自尊心を守るための嘘に黙って付き合いがら、真っ直ぐな好意を伝えてくれていた。



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