わが心なぐさめかねつ

不如帰にかこつけて

いま気づいたがごとく樫の木のほととぎすを見やっては
「ああ、あれなるほととぎすの音に魅せられましたか。いまだに鳴くとはげにもめずらしきこと…そう云えば彼処、あれなる鎮守の森の奥にあばら家が見え隠れしますが、夜分、あの辺りでよく耳にいたしまする。ご風流を聞こし召すならばいつなりともお出ましくださいませ」などと云っては言外に我が庵の在り処を教えるのでありました。それに対して立ち上がりはしたものの未だに何と返答をしていいものやら、はっきりとしない為介。決まり悪げにただ忸怩とするばかり。代りに高嗣がこれを受けます。
「いかにも。未だにほととぎすが鳴くとは、これは風流を越えた何かの神事に違いない。必ずやこの為介をば使わして検分させるにしかず。よいか、為介、あれなる鎮守の森、あれなる庵じゃ!しかと今、頭に入れよ!」と申し渡します。さらに考えを巡らし高嗣は「うーむ…しかし大宰府式部省での引き継ぎ事もあるゆえ…よし、今より2日後の夜、戌の時刻としよう。よいか、為介(同時に則子殿)、心得たか」などと云っては則子に為介訪問の日にちと時刻を伝えるのでありました。またその云い廻しによって『しっかりしろよ、為介。何だその腑抜けた様は』と叱咤の意をも呈しても見せるのでした。為介は「はは」とばかり威儀を正し、「検分の儀、心得ましておじゃりまする」と正気を取り戻しながら答えます。また改めて「これは里の婆殿、失礼をばいたしました。改めてご一献頂戴つかまつりたし」と母則子へ告げて見せます。高嗣のお陰をもってすべてが叶い嬉々とした則子でしたが、それを無理にでも押し隠して身軽げに村長のもとへと駆け寄ります。「あいすみませぬ。柄杓など持たせてしまい…」と侘びる則子に「…い、いや、どうも」とどこか腑抜けた様子の村長。
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