わが心なぐさめかねつ
(未定…)
思った通り則子と少弐、さらには家令とのただならぬ関係を目の当たりにし、恐れ入った風情で、まるで自分が巫女ででもあるかのように則子に低頭しながら柄杓を手渡します。「ほほほ、何を低頭など…」思わず表情(かお)をゆるめながらもそれを受け取り、再び為介のもとへと参っては巫女の務めをあい果します。さてしかし、飲み干しても無言のままの為介に「どうじゃ、味のほどは。長年の無沙汰をも充たすであろう母…い、いや、育みの水の味は」と高嗣が問いますのに「い、いかにも…何と申すべきやら。ハハハ」としかし気の利いた返事ができない為介でした。万事に和歌を介在させるのがこの時代の貴族の習わし、義父とは云え主人でもある高嗣が歌を入れたのなら、返歌等素養を以て返すのが利発と云うものですが儘ならぬ様子です。おそらく、もっぱら家の実務への精通を為すことで、養子の我が身をはね返そうとしたのでしょう、不調法の身をば隠しようもありません。