追放された聖女を待ち受けていたのは、エリート魔法師団長様との甘やかな実験の日々でした
「これを持って今すぐ行くのじゃ。この場はワシに任せよ」

ラモン先生は応急処置道具が一式入った鞄を手渡し、優しくわたしの背中を押す。

「愛する者のところへ駆けつけ、自分のできる限りをしなさい」とその目が訴えていた。

 ……そうだ。わたしはさっきも目の前に怪我人がいるのならば最大限を尽くすって誓ったじゃない……!

たとえ奇跡のチカラがなくても、わたしの全身全霊をかけて治癒を試みたい。想いを寄せるあの方のために。

「サウロ様、行きます。連れて行ってください!」

「はい! すぐに!」

喜び勇んだサウロ様は、一秒も無駄にしたくないというように私の腕に軽く触れると、すぐさま瞬間移動魔法を発動した。

目の前の景色が掻き消え、浮遊感が襲う。

次に目に飛び込んできたのは、荒れ果てた草原だった。

騎士達が魔物に応戦する戦闘音と怒声が、広い大地に響き渡っている。

「リキャルド騎士団長! ティナさんを連れてきました……!」

「サウロ、こっちだ! 早く!」

よく見れば、魔物に対峙する騎士達は誰かを守るように円形の陣形をとっていた。その円の中心からサウロ様を呼ぶ声が届く。

サウロ様に付き従ってそちらへ足を運ぶと、そこには二人の男性がいた。

一人は逞しい体をした騎士様。
もう一人は黒いローブの魔法師様だ。

そして魔法師様の方は……

「レイビス様……!」

目に映るあまりに残酷な光景が信じられず、わたしは思わず悲鳴のような声を上げた。

そこには意識のないレイビス様が、血を流して力無く横たわっていた。

大きな穴をお腹に開けた状態で――。
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