追放された聖女を待ち受けていたのは、エリート魔法師団長様との甘やかな実験の日々でした
体を折り曲げてお辞儀をするような体勢でキスをしていたため、下を向いていたわたしの頬からはポタリと涙が落ちる。

雫となった涙は、レイビス様の頬を濡らした。

 ……レイビス様のお顔を汚してしまうわ。

咄嗟に体を離したその時だ。

「……………ティ、ナ」

なにが起こったのか意識のなかったレイビス様が薄く目を開け、弱々しい掠れた声でわたしの名前を呼んだ。

「レイビス様……!!」

意識が戻るなんて奇跡だ。

わたしはギュッと手を握りしめ、レイビス様の名前を呼んで顔を覗き込んだ。

ぎこちなくではあるが、エメラルドの瞳が細められ、レイビス様がゆっくりと微笑む。

わたしを見上げる瞳には愛しい者へ向けるような色が浮かんでいた。

「………も、いち、ど」

そしてレイビス様は途切れ途切れになりながら、そう口にした。

それが精一杯だったのか、その一言を告げ終えると、レイビス様は再び力尽きたように目を閉じてしまった。

たった一言。でもそれだけで、わたしにはなにをすればいいのかが直感的にわかる。

 ……もう一度。お願いだからもう一度奇跡よ、起きて……!

わたしは再びレイビス様の唇に熱を落とす。

するとその瞬間、突然ものすごい量の虹色の光がわたしの体からブワッと溢れ出した。

その光は優しくレイビス様の体全体を包んでいく。

 ……こ、これはなに⁉︎ 虹色の光だから治癒魔法……⁉︎

今まで見たこともない初めての現象にわたしは度肝を抜かれつつも、目を離すまいとその動向を見守る。

キラキラと神々しい輝きを放つ虹色の光は、やがてレイビス様のお腹の辺りに集中的に集まり出した。

まるで意思があるかのような光の動きにわたしは目を見張る。

さらに驚くことに、虹色の光は大きく開いた穴をみるみるうちに塞いでいった。

 ……これならレイビス様もきっと助かる……!
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