追放された聖女を待ち受けていたのは、エリート魔法師団長様との甘やかな実験の日々でした
悩ましき問題に一人頭を捻っていると、ふいに部屋の扉をノックする音と共に「お客様、いらっしゃいますかー⁉︎」と呼びかけるやや切羽詰まった声が耳に飛び込んできた。

どうやら宿屋のご主人がわたしに何か用事があるらしい。

わたしは部屋の入り口まで赴くと、ドアを開けて外の様子を窺う。

「はい。どうかしましたか?」

「あ、良かった……! いらっしゃったんですね! 実はお客様への面会を求めている方がお見えになっているんです!」

「わたしへの面会、ですか……?」

宿屋のご主人からの意外な言伝(ことづて)にわたしは思わず首を傾げた。

まったく心当たりがないからだ。

そもそもわたしがここの宿屋にいることは誰も知らないはずである。なのに、なぜ面会を求める人がいるのか実に不可解だった。

すると、そんなわたしの様子を見て、宿屋のご主人が声をひそめて囁いた。

「……相手は見るからに貴族様でしたよ! 心当たりがなくても断らない方がいいですって……!」

こんなこじんまりした安い宿屋に貴族が訪れるなんて機会はまずない。

だからこそ宿屋のご主人も相当緊張しているようだ。

顔色に余裕がなく、なんでもいいから早くわたしへ取り次ぎしてしまいたいという思いが透けて見えた。

怪しいことこの上ない面会希望だったため断ってしまいたい気もしたが、そうなると宿屋のご主人がその貴族に断りを入れる対応をする羽目になるのだろう。

それがあまりにも気の毒に感じてしまい、わたしは結局その人に会う決断をした。

たまたま空室だったこの宿屋の中で一番良い部屋でとりあえず待ってもらっているとのことで、わたしは宿屋のご主人に連れられてそこへ向かう。

案内された部屋へ入ると、中には一人の男性が長い脚を組んでソファーに座って待っていた。

その男性を一目見た瞬間、わたしは驚きで目を見張る。

あまりにも目を引く美形だったからだ。

怖いくらいに端正な顔立ち、怜悧なエメラルドグリーンの瞳、額を見せたスタイルの髪はきらりと艶めく銀色だ。

整いすぎている上に、無表情だからか、彫刻のように冷たい印象を与える人である。

そして容姿以外にもう一つ、わたしの目を釘付けにした点があった。

男性が身に纏っている黒いローブだ。
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