追放された聖女を待ち受けていたのは、エリート魔法師団長様との甘やかな実験の日々でした
それは聖女としての十年間ではごく当たり前の見慣れた光景であった。だが、追放されてただのティナとなってからは初めてであり、実に久しぶりの情景だ。

 ……よかった。ちゃんと発動する。本当にまたチカラを使えるようになったのね。

わたしは無事騎士様を治せたことにホッと息を吐く。

本能的には治癒魔法を取り戻したと感じていたものの、まだ実践していなかったため、少しだけ不安だったのだ。

「す、すげぇ! 完全に治ってる! 普通なら数週間は休養になる怪我なのに!」

治癒を終えた騎士様は、目の玉が飛び出るほど仰天し、何度も何度も患部を確認している。

そんな反応を見ていると、やはり治癒魔法は「奇跡のチカラ」と呼ばれるほどの強大なチカラなのだと改めて感じた。

「ありがとう、聖女様! これで今すぐ戦線復帰できる! 愛する者が住まうこのフィアストン領を魔物なんかに蹂躙させるものか!」 

騎士様はわたしに笑顔を向け、強い信念と共に再び戦場へ突き進んでいった。

その後も数人の騎士様や魔法師様が運び込まれてきて、わたしはひとりひとり真摯に治癒魔法を施した。

聖女の頃は主に平民向けの治癒を担当していたため、わたしのことを知らない人がほとんどで、皆一様に驚いた顔をしていたのが印象的だった。

「治癒魔法ってすごいな」
「ミラベル嬢の治癒は受けた経験があるが、本当に同じ魔法なのか……?」
「威力が全然違う。これが本物ということか!」
「そもそも魔法云々の前に、怪我人への気遣いや寄り添い方が素晴らしい! 現聖女とは比べ物にならない」

戦場という命の危険を伴う状況で治癒されたせいか、皆様からは過剰な褒め言葉までいただいてしまった。

でもやっぱり一番嬉しいのは「ありがとう」の一言だ。これだけで胸がいっぱいになる。自然と笑顔が浮かんだ。

「本物の聖女だ……」

その時、ふいに誰がそうポツリと零した。
するとそれに(たん)を発して、口々に皆がわたしを「聖女様」と言い始める。

さすがに教会を追放された身なので、堂々と人から「聖女」と呼ばれるのはどうなのだろうかと、わたしはこの状況に面食らった。

「はいはい、皆さん。お気持ちはわかりますが、ティナさんがお困りですよ?」
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