追放された聖女を待ち受けていたのは、エリート魔法師団長様との甘やかな実験の日々でした
戸惑っていると、するりとわたしを庇うように前に出たのはサウロ様だ。皆さんをやんわりと宥めてくれる。実にそつがない手際の良い対応だ。

「あ、それとそこの騎士さん? いくらティナさんの神々しさに感動していてもお手触れは控えてくださいよ? あるお方の恨みを買うと思いますので」

さらには、なぜかわたしに近寄ろうとしていた若い騎士様を牽制する。

これも護衛の一環だろうかと思っていると、サウロ様はつと遠くの方へ視線を向けた。

つられてそちらを見れば、空を真っ赤に染めるような燃え盛る炎が目に映る。続いて物凄い爆発音が辺りに轟いた。

「……あれを食らう覚悟はあります?」

あまりの光景に全員が呆気に取られて見入っていると、耳をつんざく音が落ち着いた頃合いに、サウロ様は真顔で騎士様にそう言った。

「…………」

絶句した騎士様は、ブルっと体を震わせて汗をダラダラかき始める。途端に目にも止まらぬ素早さでわたしから遠のいた。

その騎士様だけでなく、よく辺りを見渡せば、他の方々もなぜかわたしを遠巻きにしていた。

 ……えっ? なに? どういうこと?

状況を呑み込めないのは、どうやらわたしだけのようである。

「ティナさん、あれは団長の大規模魔法の一つですよ。皆さん理解されたのです。貴女にちょっかいを出せば自分がどんな目に遭うかってね」

「そ、それは……」

「稀代の天才魔法師の恋人に手を出すなど愚かの極みですから」

「こ、恋人……⁉︎」

顔がカッと熱くなる。

首の付け根まで朱を注いだように真っ赤になり、狼狽してわたしは言葉に詰まった。

 ……さっきは必死だから気にしないようにしてたけど、そういえばサウロ様には、レイビス様と……く、口づけを交わしているところを見られていたんだったわ……!

あの時は治癒魔法を取り戻すための手段だったが、その事実を知らなければ恋人同士だと誤解されても仕方ない。

でもそこではたと気づく。

 ……待って。誤解、ではないのかしら?

レイビス様はわたしに告げた。
わたしに好意を持っている、と。

その時は同じ気持ちである事実が嬉しくて、それだけでもう心がいっぱいいっぱいだったから、確認し合ってはいない。

 ……でもお互いにお互いを好きな状況なのだから……も、もしかして恋人ってことでいいの? うそ、本当に? 
< 111 / 141 >

この作品をシェア

pagetop