追放された聖女を待ち受けていたのは、エリート魔法師団長様との甘やかな実験の日々でした
「まずフィアストン領騎士団は城壁へ帰還。父と弟の指揮下に戻り、領の守りを固めてくれ」

「はっ!」

「宮廷魔法師団と宮廷騎士団もそちらへ同行して、引き続き国境の守りの助力を頼みたい」

「承知!」

「副団長は悪いが瞬間移動魔法で王宮に一度戻り、王家へ現状報告を頼む。アルヴィン王太子殿下には例の研究は成功したと伝えてほしい」

「お任せください」

次の動きを具体的に示された団員達は、キビキビとした動作で行動を開始し始めた。

「んで? 俺は?」

レイビス様は騎士団長様の頭越しに彼の部下へ勝手に指示を出したわけだが、腕を組んだ騎士団長様は動じる様子がない。

なにかレイビス様に考えあってのことだろうと察したのか、ニヤリと笑った。

「僕は団長に同行ということですね? それで、団長はどこでなにをするつもりなんです?」

サウロ様もなにも言われずともレイビス様の考えを理解したかのように、平然とした様子で問いかけた。

レイビス様は返答する前に一瞬わたしに視線を送る。

そして再び騎士団長様とサウロ様へ顔を向けると、こう言った。

「今からフィアストン領にある教会へ赴く。リキャルドとサウロはそこに同行してほしい。少数気鋭で機敏に動きたいと思っている」

「教会か」

「それはもしかして……」

「ああ、ミラベル嬢を追求した上で、敵国への加担を理由に捕縛する」

思わずわたしはゴクリと唾を呑んだ。
レイビス様の言葉と表情の節々から本気を感じる。

 ……ミラベル様……。

わたしは脳裏に豊かな金髪の気位の高い令嬢を思い浮かべた。

ミラベル様に思うところがないと言えば嘘になる。教会にいた頃もかなりの治癒を肩代わりしたし、時には心無い言葉もかけられた。

治癒魔法を使えなくなった原因ももしかしたらミラベル様が飲み物になにかを混入したのではという疑いまである。

でも、彼女は元同僚。
治癒魔法を使える聖女仲間でもあるのだ。

約一年は共に治癒活動を取り組んできただけに少しだけ同情心が疼いた。

「悪いがティナ、君にも同行してもらいたい。ミラベル嬢と一番面識があるのはティナだ。教会にも詳しい。なにか通常とは違う異変があった時に気づけるのは君しかいない」

「わかりました」

とはいえ、レイビス様に助力を請われて断るという選択肢はない。

わたしにも無関係でない以上、結末を見届ける責任があるだろう。

わたしはこくりと頷き、決意を込めてレイビス様の瞳を見つめ返した。
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