追放された聖女を待ち受けていたのは、エリート魔法師団長様との甘やかな実験の日々でした

20. 聖女の告白

瞬間移動魔法でフィアストン領にある教会に到着したところ、教会正面の扉は訪問を歓迎するかのように大きく開け放たれていた。

ここの教会に来るのは初めてだったが、教会の構造はどこもほぼ同じだ。

慣れ親しんだ景色に少し感慨を抱きながら、わたしは久しぶりに教会へ足を踏み入れた。

レイビス様や皆様を先導し、中へ進んでいく。

「もう無理よ。これ以上あたくしを頼らないでちょうだい!」

「しかし、怪我人はまだまだおります」

「あなたが治療すればいいじゃないのよ!」

「私も力の限りを尽くしますが、手が足りません。神官達があいにく不在にしているのです。奇跡のチカラをお持ちの聖女様にお願いするほかありません」

すると礼拝堂に続く大広間からなにやら言い争うような声が聞こえてきた。一際大きな声を発しているのは、おそらくミラベル様だ。

わたしはチラリとレイビス様に視線を送る。

レイビス様も声の主に気づいたようで、心得たように軽く頷いた。

「では中に踏み込む。なにやら揉めているようだ。各々注意してほしい」

「おう、任せろ!」

「わかりました!」

わたしはレイビス様の背後につく。
合図に合わせて全員で一斉に大広間に雪崩れ込んだ。

 「なっ……」

中に入った途端、わたしは目に飛び込んできた状況に思わず驚きの声を漏らした。

なにしろ酷いあり様だったのだ。

手当てをされていない多数の怪我人がそのへんに転がされていて、呻き苦しんでいる。

大衆浴場の処置室で、魔物の暴走が起こった直後に見た阿鼻叫喚の光景とそっくりだ。

ただ、処置室と違うのは、治療する人が見当たらない点だ。

 ……医療神官がいないの……? 明らかに手が足りていないわ。

辺りを見回しても教会の人間は言い争っているミラベル様と一人の神官の二人しかいない。その神官はニコライ司教だった。

浴場の処置室は、ラモン先生はもちろん、多くの協力者のおかげで最初こそ混乱したが、事態は次第に落ち着いていた。

だが、ここはあれから結構な時間が経つのに、まだ戦場と化している。

「……レイビス様、様子がおかしいです。神官の数があまりにも少なすぎます。治療の手が足りていないようです」
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