追放された聖女を待ち受けていたのは、エリート魔法師団長様との甘やかな実験の日々でした
目の前に颯爽と現れたレイビス様に、ミラベル嬢は目を丸くして、一瞬だけ喜びを顔に浮かべた。

だが、不穏な台詞と空気からなにかを感じ取ったようで、今度は顔を強張らせる。

そんなミラベル様を機敏な動きで騎士団様が容赦なく拘束する。背後をとり、ミラベル様の腕を背中へ回して動けなくした。

「いたっ、痛いですわ! あたくしを誰だと? 国内唯一の聖女であり、ネイビア侯爵令嬢でもあるのよ⁉︎」

「残念だな。俺は宮廷騎士団の団長であり、ラシュート公爵子息だせ? しかもあんた、もう唯一の聖女じゃないしな」

「な、なんですって⁉」

「それは本当ですか! もしかしてティナ様にチカラがお戻りに⁉︎」

突然目の前で繰り広げられた拘束劇を呆然と見ていたニコライ司教が、騎士団長様の最後の台詞に大きく反応する。

その時になってようやくミラベル様とニコライ司教は、わたしもこの場にいる事実に気がついたようだった。

「ティナ様!」

「なんであなたがレイビス様やリキャルド様達とここにいるのよ⁉︎ 卑しい庶民のくせに!」

ニコライ司教がわたしの姿に微笑むのとは対照的に、ミラベル様は猛烈に怒りを噴出させる。

拘束されて動けないはずなのに、食ってかかってきそうな勢いを感じる。

「ティナはチカラを完全回復させた。お前の思惑が叶わず残念だったな。その辺りも話を聞かせてもらおう」

わたしを隠すように一歩前に出ると、レイビス様はミラベル様に貫くように鋭い視線を浴びせた。

あまりに冷徹な瞳にミラベル様はビクリと体を震わせる。

とりあえず詳しく話を聞き出すために、場所をここから礼拝堂に移す運びになった。

わたしは大広間に残って治癒を担当しようかと思ったのだが、レイビス様にこちらに同席してほしいと頼まれる。

だけど、このまま苦しむ人々を放っておけない。

そこで話し合った結果、わたしは重症の怪我人のみ治癒を請け負い、他の人々はラモン先生にお願いしようという話になった。サウロ様が瞬間移動魔法で浴場の処置室に飛び、ラモン先生達を連れてきてくれるという。

それならわたしも安心して任せられる。
ラモン先生達は教会に対して思うところがあるだろうだが、絶対に苦しむ人々を見捨てる選択なんてしないだろう。

これを機に浴場の処置室と教会の距離が近くなってくればいいなとわたしは密かに願った。
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