追放された聖女を待ち受けていたのは、エリート魔法師団長様との甘やかな実験の日々でした
意外なことに、レイビス様が危険な状態だったと聞いたミラベル様は目を大きく目開き、ガタガタと体を震わせた。

そしてとうとう口を開き出す。

「……し、知らなかったんです。あの香水が魔物寄せだなんて! あたくしは媚薬が配合された香水だと聞いていたんですの! あれを纏って意中の殿方に抱きつけば、相手を夢中にさせられると言われて……」

だが、それは予想もしない告白だった。

 ……ミラベル様が嘘をついている様子はないわ。あの目は本物だわ。

直感的にそう感じたわたしだったが、それは他の三人も同じだったらしい。

「誰に聞いて、誰にあの香水を渡された?」

「あ、あたくしの侍女ですわ! オルガは皆こっそり使っているものだって言っておりましたのよ……!」

必死な叫びを聞いて、わたしはいつもミラベル様の傍に侍っている侍女の顔を思い浮かべた。

特徴のない顔をした物静かな女性だったと思う。ミラベル様が聖女として教会に現れた頃からずっと常に傍に侍っていたと記憶している。

 ……あれ? そういえば今日は?

なにか違和感があると思えば、今日はミラベル様の傍に侍女がいないのだ。二人で一人というほどいつもべったりだったのに。

「その侍女にも話を聞きたいがどこにいる?」

「た、体調が優れないと言うものですから、レイビス様との面会の後に帰しましたわ」

「怪しいな。偽って香水を使わせたことといい、この絶妙なタイミングで不在なことといい、非常に疑わしい。おそらく逃げたな」

「そんな! オルガは無関係ですわ!」

侍女との間には強い絆があるのか、どんなに怪しくともミラベル様は侍女の無罪を疑っていないようだ。

「もう一つ聞く。お前はティナが治癒魔法を使えなくなるよう企んでなにか仕掛けたのか?」

「た、たしかに目障りな存在でいなくなればいいとは思ってましたけど、そんな企みはしていませんわ……!」

「では治癒魔法が使えなくなった日の前日に突然ティナの部屋に訪ねたのはなぜだ? 紅茶を勧めたと聞いたが、そこになにか混入していたのだろう?」

「なっ……!」

再びレイビス様の話にミラベル様は脳天に一撃食らったように絶句する。

その驚きようはやはり嘘には見えない。とすれば、これも侍女が絡んでいるのだろうか。
< 118 / 141 >

この作品をシェア

pagetop