追放された聖女を待ち受けていたのは、エリート魔法師団長様との甘やかな実験の日々でした
あとからティナに聞いたところ、その前にも口づけは試したのだという。その時は治癒魔法は発動しなかったそうだ。

 ……私に意識がなかったため、双方が同じ気持ちでという点が足りなかったと考えるべきだろうな。

様々な事象の収集により私の考察は進む。
治癒魔法を取り戻すという研究自体は成功したが、まだまだ奇跡のチカラに興味は尽きない。

サラバン帝国との一件が落ち着けば、ぜひ腰を据えて研究したいものだ。もちろんティナと。

「侍女が工作員だとすると、あの人物は間違いなく敵国への密通者だと考えられるよな?」

「ああ、そうだろうな。国境を行き来した貴族のリストにも載っていたしな」

侍女について考えを巡らせる流れで治癒魔法に意識が向かっていた私は、リキャルドの声で引き戻される。

真犯人が侍女であるならば、先程のミラベル嬢の証言からもある人物の関与は確定と考えて良いだろう。

付け加えるならば教会も黒確定だ。

「それでこれからどうする? 侍女はたぶん逃亡してるだろうし、もう見つけるのは難しいだろ? 先に密通者や教会の人間を捕えるか?」

「いや、そちらはどちらも王都でとなるだろう。王家と足並みを揃えた方がいい。私とリキャルドは侍女の後を追って拘束しよう」

「後を追うって、何か考えがあるのか?」

「ああ、追跡は簡単だ。侍女はまだサラバン帝国へは到達していないから十分間に合う」

どうやったんだと言いたげなリキャルドの驚く顔を受け流し、私は礼拝堂から大広間へ移動する。

次の行動が決まった今、ここを離れる前にティナの顔を見ておきたい。さすがに真犯人の元へは彼女を連れて行くのは差し控えるべきだろう。

大広間に一歩入ると、まず目に飛び込んでくる景色が先程とは全く違うものである事実に私は瞠目した。

ここへ来た時は、放置されている怪我人たちの嘆き苦しむ声がこだましていたが、今は非常に落ち着きを取り戻しており、笑顔の者が多く見受けられる。
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