追放された聖女を待ち受けていたのは、エリート魔法師団長様との甘やかな実験の日々でした
浴場の処置室代表のラモンという者や、その他協力者達が、ニコライ司教と連携して非常に良い動きをしているからだろう。

そしてそんな人々の中心にいるのはティナだ。誰をも魅了する清純な微笑みを浮かべている。白の衣を纏っているわけではないのに、その場に佇む姿はまさに聖女だった。

思わずその姿に目を奪われ、私は無意識に足を止めていた。

視線を感じたのか、ふとティナが自分を取り囲む人々からこちらへ目を向ける。美しい金色の瞳と視線が絡んだ。

「レイビス様」

鈴を転がすような声で私の名を呼ぶティナに、甘いなにかが胸を満たした。研究で成果が出た時の充実感とも違う。

心というのは実に不思議だ。
こんな些細なことで喜びを感じるなんて。

このまま抱きしめて唇を奪ってしまいたい衝動に駆られるが、今はその時ではない。まだ終わっていないのだ。まずは一連の騒動に決着をつけなくてはならない。

 ……だというのに、先程はティナの許可もなく身体的接触を勝手にしてしまったからな。

死の淵から生還した直後、つい口づけをしてしまったのは記憶に新しい。

実験でもないのに無許可だったのは反省だ。滅多なことでは動じない私だが、生還や戦闘による興奮で分別を失ってしまっていた。

 ……被験体としての契約を終わらせ、ティナと新しい関係を築きたい。

それもすべては落ち着いてからとなるだろう。一刻も早くティナと遠慮なく恋人関係になるために、忌まわしい物事はサッサと終わらせねばと心を決めた。

私はティナの方へ歩み寄っていくと、真犯人を追うためこの場を去る旨を告げる。

ティナは小さく頷くと不安そうな瞳で私を見上げた。私の身を案じてくれているのが伝わってくる。

そして立ち去ろうとすると、おずおずと遠慮がちにローブの裾を握って、ティナが私を引き留めた。

「ティナ?」

「……その、邪魔になるとは分かっているのですが、もし可能なら……私も一緒に連れて行っていただけませんか?」
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