追放された聖女を待ち受けていたのは、エリート魔法師団長様との甘やかな実験の日々でした
表情の乏しい澄ました顔で魔法師団長様にそう促され、わたしは慌てて、テーブルを挟んだ反対側のソファーに腰掛けた。

とはいえ、真正面から向かい合うのは恐れ多すぎる。

かなり端の方にちょこんと小さく身を縮めて座り、魔法師団長様の言葉を待ち構えた。

「確認だが、お前が元聖女か?」

「はい。そうです」

「ある日突然治癒魔法のチカラがなくなったと聞いたが事実か?」

「……はい。その通りです」

どうやら魔法師団長様は『聖女』に用事があるらしい。

チカラがなくなったため、治癒を頼まれても何もできないことを申し訳なく思い少し声が小さくなってしまった。

たが、魔法師団長様の次の言葉は全く私の予期しないものだった。

「それは実に都合がいい」

そう言って彼はごくわずかに声に喜色を滲ませたのだ。

 ……えっ? 治癒魔法を使えなくなったことが都合がいい? どういうこと……?

チカラを失って以降、こんな反応をされたのは初めてだ。

希少な奇跡のチカラが使えなくなったことを嘆くのではなく喜ぶだなんて。普通では考えられない。

わたしが呆気に取られていると、魔法師団長様はその端正かつ無表情な顔をわたしに向けて次なる言葉を繰り出した。

「私は魔法の研究をしている。これは職務であり趣味でもある。魔法は謎に溢れているため奥深く興味が尽きないからな。目の前に未知があれば研究したくなるだろう?」

そう語る彼の口調は、淡々としたものながら、先程までより明らかに饒舌だ。研究への溢れんばかりの熱意が伝わってくる気がする。

きっと公私問わず熱心に魔法を研究しているに違いない。だからこそ、天才と言われているのではないだろうか。

若くして宮廷魔法師団のトップの座に就いているから、てっきり公爵家の威光だと思っていたが、そうではないのかもしれない。

「実は最近の私の興味は治癒魔法なんだ。ぜひ希少な治癒魔法を研究したいと思っている。特に失われたというのは前例のない貴重なサンプルだ。私が行う実験の被検体になって欲しい」

「実験の被検体、ですか……?」
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