追放された聖女を待ち受けていたのは、エリート魔法師団長様との甘やかな実験の日々でした
ふとわたしが教会を追放される際にニコライ司教と二人で話した時のことを思い出した。

あの時、確かにニコライ司教は無念そうな顔で言っていた。友人が無実の罪で追放された、と。今話しているのはその件だろう。

レイビス様も二十年前にそういった事件があった事実は把握していたようだ。詳しくニコライ司教に話を聞き出している。

どうやら当時、ニコライ司教は無実の友人を助けるため脱獄を手助けしたらしい。そしてその友人は処刑されることなく、貴族籍を捨てて逃げ延びたそうだ。

「私の行いは許されることではないのは承知しています。ですがあの当時はそうするしかありませんでした。その後、私も貴族籍を捨て、罪を償う意味も込めて教会で神官として生きてきました」

「……となると、その男は今も生きているのか?」

「それは私にもわかりません。私との繋がりから居場所が露呈することがないよう、それ以来私達は一切の連絡をとっていないのです……」

「ちなみにその男の名は?」

「ペッレルヴォ・エイジャーです。当時はエイジャー伯爵でした。お取り潰しとなったため、今や伯爵家は存在していません」

「ペッレルヴォ……?」

重要事項がやり取りされているため、静かに控えていたわたしだったが、最後にニコライ司教が口にした男性の名前に思わずつい反応してしまう。

どうやら無意識に口に出してつぶやいていたようだ。レイビス様がわたしを見ているのに気づき、慌てて口に手を当てた。

「ティナ、この名前になにか気になることでもあるのか?」

場違いにも反応してしまったためか、レイビス様がわたしに問う。

それにわたしは素直にこくりと頷いた。

「実は、わたしの父の名前と一緒なのです。父はいつも言っていました。長くて発音しにくい珍しい名前だろう?、と。だから同じ名前の方がいることに思わず反応してしまいました。申し訳ありません」

そう説明すると、信じられないと言わんばかりにニコライ司教が大きく目を見開く。

そして懐から一枚の紙を取り出したかと思えば、わたしの方へもの凄い速さで詰め寄ってきた。
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