追放された聖女を待ち受けていたのは、エリート魔法師団長様との甘やかな実験の日々でした
「ティナ様! これが私の友のペッレルヴォの姿絵なのですが見てもらえませんか?」

「は、はい……!」

勢いに押されつつ、わたしは姿絵を手に取ってしげしげと眺める。

姿絵には二十歳くらいの若い男性が描かれていた。服装や雰囲気がどう見ても貴族である。

わたしの父は言うまでもなく平民だ。だから父であるはずなど絶対ないと思ったのに……

「……ち、父です! 服装は違いますが、この顔、この目の下の黒子は父に違いありません……!」

今日何度目かになる衝撃にわたしの心臓が激しく動悸する。驚きすぎて、みぞおちを打たれたように声も立てられない。
 
その場にいた他の面々もこの事実には唖然としていた。

ただ、ニコライ司教だけは少し悲しげな表情も滲んでいる。彼は悟ったのだろう。わたしの父ということは、もう友はこの世にいないと。

「ハッ、まさか邪魔な聖女がペッレルヴォの娘だったとはな! アイツの執念による復讐か?」

少ししんみりしていた空気を打ち破ったのは、大人しく黙っていたネイビア侯爵だった。

彼はこちらを馬鹿にするような面持ちで、ニヒルな笑みを浮かべる。

「聖女だけじゃない。なんの因果か、憎きフィアストン公爵とラシュート公爵の倅が私を拘束するだと⁉︎ 気に入らん、気に入らん、気に入らん……!」

「それはどういう意味だ?」

突然怒りを爆発させたネイビア侯爵に、レイビス様が無表情な顔で冷たく問う。

ネイビア侯爵はここぞとばかりに思いの丈をぶちまけ始めた。

「私はな、そこの神官の言う通り、二十年も前から計画を進めていたのだ! すべてはこの国の王家と二大公爵家への報復のために!」

「報復だと?」

「そうだ。私はお前達の父親が心底嫌いなのだ! 若い頃から苦労も知らず公爵家の威光で幅を利かせおってからに。二大公爵家がのさばっているせいで、我がネイビア侯爵家がなかなか日の目を見ないのだ! 王家も目が腐っておる!」

それは完全に逆恨みというべきものだった。

同年代の二大公爵当主にネイビア侯爵は一方的に劣等感を抱き、勝手に恨みつらみを募らせていたのだろう。
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