追放された聖女を待ち受けていたのは、エリート魔法師団長様との甘やかな実験の日々でした
そんなところをサラバン帝国に目を付けられたに違いない。

ネイビア侯爵によると、敵国との最初の接触は二十年前だという。当時二十代だった彼はまだ年若く未熟だったため、密通が露呈してしまい、慌ててわたしの父に罪をなすりつけたそうだ。

その後、帝国への警戒心が国内で高まったため、発覚を恐れてネイビア侯爵は手を引いたらしい。

それからサラバン帝国とは関係を絶っていたものの、いまだに公爵達への妬みを抱える中、二年前に十数年ぶりに帝国から接触があったという。

「帝国は十年前の敗戦で学んだらしい。やはり内部に味方が必要だとな! そこで私に話を持ち掛けてきたわけだ」

「見返りにはなにを?」

「サラバン帝国での公爵位だ。念願の公爵になれるはずだったのに! クソッ!」

 ……そんな理由でミラベル様を使い捨ての駒にしていただなんて。あんまりだわ……。

私怨を拗らせ、欲に塗れたネイビア侯爵に、ついつい冷たい視線を向けてしまう。

彼は身勝手な理由で、ミラベル様だけでなく、わたしの父の人生をも巻き込んだのだ。

「動機は十分理解した。自分勝手極まりなく、不快でしかないということをな」

レイビス様が心の芯まで凍る冷たい言い方でネイビア侯爵を切り捨てる。

背後で拘束していた騎士団長様も厳しい顔つきでさらにきつく腕を縛り上げ、侯爵が悲鳴を漏らした。

そのまま騎士団長様が王宮の牢獄へと連行していく手筈となり、その後ろ姿を見送る。

今日三度目となる罪人の背中だった。

瞬間移動魔法で簡単に連れて行くのではなく、今回は王都を練り歩き、ネイビア侯爵の罪を知らしめるらしい。

 ……父さん。父さんに罪を被せた人が捕まったよ。これで少しは無念が晴れたのかな? それとももう過去の出来事だって気にしてなかったのかな?

わたしの知る父は平民で、いつも母の隣で明るく笑っていた。そんなツライ過去を抱えていたなど微塵も感じなかった。

だから今となっては父の本心は分からずじまいだ。

だけど、いずれにしても天国で笑顔を見せてくれていればいいなと思いながら、わたしは心の中で亡き父に語りかけたのだった。
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