追放された聖女を待ち受けていたのは、エリート魔法師団長様との甘やかな実験の日々でした
王家はこうした王国内への公表のみならず、その後サラバン帝国への報復も着実に水面下で進めている。

報復といっても、敵国へ攻め入るようなやり方ではない。堅実な国家運営を是とする王家は、戦争で国民に負担を強いるのではなく、他国と協力してサラバン帝国包囲網を作る手を選択した。

独善的なサラバン帝国を快く思っていない隣国の国々で協力して経済制裁などを仕掛けていくそうだ。

ちなみに、どうして一平民であるわたしがこれほど騒動の事後対応に詳しいのか。

それには理由がある。
身近に事情にもっとも詳しい人がいるからだ。

あれから半年が経った今、わたしを取り巻く環境は大きく変わっていた。


◇◇◇

「ティナ様、新婚なのにここで治癒活動をされていて大丈夫なのですか?」

「はい、大丈夫です。夫が瞬間移動魔法で迎えに来てくれる予定なので」

教会で治癒を施していたところ、ニコライ教皇が心配そうな表情でわたしに尋ねる。

わたしは笑顔で、まだ使い慣れない『夫』という言葉を口にしながら答えた。

数日前、わたしは王都の教会で結婚式を挙げ、レイビス様と正式に夫婦になった。

神父を務めてくれたのはニコライ教皇だ。アルヴィン王太子殿下やリキャルド騎士団長、補佐官のサウロ様、そしてラモン先生も出席してくれた。

多くの人に祝福される心温まる式だったのは記憶に新しい。とても幸せなひと時だった。

それがつい数日前だというのに、わたしは休むことなく今日も教会で、怪我や病気で苦しむ人々の治癒にあたっている。

「聖女様! ありがとうございました!」
「先程までの痛さが嘘のように楽になりました!」
「わぁ! 光が苦しいの無くしてくれたぁー!」

老若男女、貧富の差を問わず、奇跡のチカラを使って癒していく。

人々の笑顔と「ありがとう」の言葉がわたしの胸を温かい気持ちで満たしてくれた。

 ……やっぱり聖女として教会に復帰してよかった。このチカラは人のために使わないとね。

そう、わたしは追放を取り消され、再び教会を手伝うようになっている。ニコライ司教と共に身分の垣根を超えた治癒活動を広げていた。

ただ、以前とは違う点がある。
それはわたしが教会の所属ではなく、あくまで協力者という立場になったことだ。
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