追放された聖女を待ち受けていたのは、エリート魔法師団長様との甘やかな実験の日々でした
わたしは驚きと畏敬の念に打たれた。

「では私はさっそく住居を用立ててくる。決まったら使いをやるから移動してくれ。実験は来週からだ」

魔法師団長様の有能さに面食らっていると、当の本人はそれを鼻にかけることもなく、話を淡々と先に進めていく。

事務連絡のごとく告げられた今後の予定について、わたしは承諾の意を示すため首を縦に振った。

だが、またしてもそこでふと疑問が頭に浮かぶ。

「……あ、あの。具体的に実験って何をするのでしょうか? 事前に準備することやわたしが気をつける事項はありませんか?」

そう、実験の詳細も、なんだったら研究内容も具体的にはまだ何も聞いていなかったのだ。

わたしからの問い掛けを受け、魔法師団長様も「ああ」とすっかり忘れていたと言わんばかりの声を漏らす。

「私が研究したいのは、治癒魔法が使えなくなった現象と再び力を取り戻すための方法だ。実は非常に古い文献に同様の事例についての記述を見つけた」

「えっ? 本当ですか⁉︎」

「まあ、信憑性のない文献だがな。でも私は可能性はあると思っている」

 ……まさか治癒魔法のチカラを取り戻せる可能性があるなんて! 治癒を待ち望んでいる人々を助けられるかもしれない……!

わたしは自分でも驚くほど心に希望が広がっていくのを感じた。同時にそわそわしてきて、どうにも気がはやる。

しかし、彼の言葉はこれで終わりではなかった。

続く説明はとんでもない内容で、わたしは思わず耳を疑うことになる。

「その文献によると、チカラを失った者に恋人ができた後、治癒魔法のチカラが回復したそうだ。何が作用したのか実験で解明したいと考えている」

「? えっと、それはつまり……?」

「私と恋人同士がするような行為を一つずつ試してみて、治癒魔法の反応があるかを確認する実験ということだ」

「え…………………」

涼しい顔つきの魔法師団長様から飛び出した信じられない言葉に、わたしは目を見張り絶句した。

どんなに予期せぬ実験内容だとしても、もう交渉は成立してしまっている。

承諾する前に内容を聞いておけばと後悔しても時すでに遅し。

今さら無理だとは言える雰囲気ではなく、もはや引き返すのは完全に不可能になっていたのだった。
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