追放された聖女を待ち受けていたのは、エリート魔法師団長様との甘やかな実験の日々でした
「治癒魔法を再び取り戻せる可能性って本当にある? レイビスは何か心当たりがあったりするの?」

「やってみないと分からないが仮説はある。実際に色々試して効果を検証する必要はあるけどな」

「つまり元聖女ティナの協力が必要ということだよね? そういう話なら一度王家で彼女の行方を探ってみるよ」

何を思ったのかアルヴィンは私の研究のために突然協力を申し出てきた。

そのことに何かしら感じるものがあったのは私だけでなく、リキャルドも同じだったらしい。

臣下の顔になった私たちは姿勢を改めてアルヴィンの方を向き、視線で問いかける。

「やっぱり二人は鋭いね。教会は一人いれば安泰だと自信を見せているけど、王家としては治癒魔法を使える聖女は一人でも多い方がいいと思っているんだ。……特に今はね」

《《今は》》という言葉に含みがあった。

一体何が起きているのかと胸騒ぎがして眉根が寄る。

「これはちょうど今日王家からフィアストン公爵とラシュート公爵――二人のお父上にも共有したのだけど。……実は最近のサラバン帝国の動向がどうも怪しい。きな臭さが漂っているんだ。近いうちに戦争もありうるかもしれない」

声を潜めながら告げられた内容に、私とリキャルドはゴクリと唾を呑む。

サラバン帝国とはこの十年停戦状態となっている。十年前の大戦では我が国が大勝利をあげ、その結果サラバン帝国は大きく国力を落としたからだ。

サラバン帝国と隣接するフィアストン領でも、戦争直後こそ緊張状態だったものの、この十年は平和なものだった。

国境線での検問はしっかりしているが、対サラバン帝国を想定して集められていた騎士は、近年開墾や内政に回されている。

たが、サラバン帝国は野心の強い独善的な侵略国家だ。他国を攻めて領土を奪い取ることを正義としている。

だからいつかは動き出すだろうとは思われていた。この十年はおそらく再戦を仕掛ける資源や人材が不足していただけで、(きた)るべき日に備えて()の国はじっくり力を蓄えていたに違いない。

 ……いよいよサラバン帝国が国力を回復させ、再び侵攻してくる可能性があるのか。気が抜けないな。

国境地であるフィアストン領を治める公爵家の嫡男としても、宮廷魔法師団の団長としても、アルヴィンの話は決して聞き流せないものだった。

それは宮廷騎士団を預かるリキャルドも同じだったようで、先程とは打って変わって厳しい表情が顔に浮かんでいる。
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