追放された聖女を待ち受けていたのは、エリート魔法師団長様との甘やかな実験の日々でした
健康な体があるからこそ、国民に労働意欲が湧き、経済が回る。そして国が活気づく。

まさに聖女は国の繁栄の陰の功労者と言えるだろう。

だが、そんな功労者の一人である聖女ティナに、今大きな異変が起こっていた。


「えっ、どうして……?」


ティナはいつものように患者の傷口に手をかざしながら、目を丸くした。

通常ならば手をかざして心の中で念じるだけで虹色の光を発する治癒魔法が発動する。

だが、この日は何度試しても全く反応がない。

八歳の頃からかれこれ十年間聖女を務めているが、こんなことは初めてだった。

異常事態にティナの薄い金色の瞳には困惑の色がありありと浮かぶ。

「……今日は聖女様が少々お疲れのようです。申し訳ありませんが治癒魔法での治療は中止とさせて頂きます。今回は我々教会の医療神官達が手当てにあたりましょう」

ティナの側に控えていた司教が見かねて助け船を出し、教会に集まった患者達へそう説明すると、部下である司祭やシスターに指示を出し始める。

患者達は一様にガッカリした表情を浮かべたが、尊い存在の聖女に文句を言えるはずもない。司教の言葉に従う他なかった。

「それで、ティナ様。一体何があったのです?」

患者達が他の場所へ移り、人払いがされると、今回の取りまとめ役である司教がティナに尋ねた。

その問いに残念ながらティナは答えを持ち合わせていない。

「……自分でも分からないんです。いつも通りにしたのに治癒魔法が発動しなくて」

ティナこそ何が起こったのか知りたいくらいだった。
 
途方に暮れるよう項垂れて、力なく首を左右にゆるゆる振る。淡い桃色の長い髪を揺らしながら、普段は柔らかな優しい笑みが浮かぶ顔に、当惑の色を滲ませていた。

そもそもが非常に希少な奇跡の魔法である。

司教はおろか、誰もその原因が分かるはずもない。

結局その日は、連日の治療で疲労が溜まっていたのだろうと一旦結論づけられ、ティナは教会本部へと引き返すこととなった。
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