追放された聖女を待ち受けていたのは、エリート魔法師団長様との甘やかな実験の日々でした
残念ながらフィアストン領のどこにいるのかは不明との報告だったため、私はさっそく瞬時移動魔法でフィアストン領に赴き、探知魔法で彼女の居場所を特定した。

探知魔法はもともと魔物を探知するための魔法なのだが、応用すれば魔力を持つ存在なら同様に突き止めることができるのだ。

特に元聖女は突出して魔力量が多い。
フィアストン領という限られた領域内で、その魔力を感知するのは比較的容易なことだった。

突き止めた場所は、「ここに本当に元聖女がいるのか?」と思わず疑わしくなるような宿屋だ。

実際に足を運んで宿屋を前にした私は自分の目が信じられなかった。

元とはいえ、長年教会で確固たる地位に就き、人々から崇められていた聖女だ。

てっきり高慢な女なのではと想像していた。

もう一人の聖女ミラベル嬢がまさにそうだからだ。彼女であればこんな宿屋にはまず目もくれないだろう。

そして宿屋の主人に面会を申し入れ、しばらくの後に姿を現した元聖女と実際に対面し、やはり思い描いていた人物像とは違うという事実を思い知った。

元聖女ティナは、アルヴィンが話していた通り、穢れとは無縁な清らかな雰囲気を纏う女だった。

白く透明感溢れる肌、柔らかな薄桃色の長い髪、温かみのある金色の瞳。客観的に評価して美人だと言えるだろう。

高い地位に長年在位していた割に横柄さがなく、非常に控えめな態度なのだが、なぜかやたら謝礼に反応していた。

 ……こんな貧相な宿屋に泊まっておきながら金に目がないとはチグハグだな。

金に困る経験がない私には、金欠という状況が思い至らず、そんな感想を抱いた。

こうして謝礼に目を輝かせた元聖女を被験体として、私の仮説を立証する研究が幕を開けた。


この研究が(のち)に、私の運命を大きく左右することになるとは思いもせずに――。
< 21 / 141 >

この作品をシェア

pagetop