追放された聖女を待ち受けていたのは、エリート魔法師団長様との甘やかな実験の日々でした
「文献内でこの女は聖女とは呼ばれていない。だが、様々な描写からおそらく治癒魔法の使い手だろうと推測できる。そして物語の中で女はそのチカラを一度なくすのだ」
「チカラをなくす……」
「ああ。原因は描かれていない。それでその後、女は山中で人と関わらずにひっそりと暮らすのだが、ある日遭難した男を助け、その男と恋に落ちる。するとまたチカラが手に戻ったのだ。つまり恋仲の者がするような何かが作用したのではないかと仮説が立つ」
「でも、これは御伽話。創作のお話ですよね……?」
「それはその通りだ。正式な研究文献でもない。だから信憑性もない。だが、真実というのは往々にしてこういった一見何の関係もなさそうな御伽話に紛れ込んでいたりするものだ。特にこの話に登場する女は、明確に描かれていないが察するに平民だ。つまり……」
「わたしの状況と似ている、ということですね。よく分かりました」
ここまでの説明で、魔法師団長様が持つ仮説の背景はよく分かった。
だからあんな突拍子もない実験をするということだろう。
「では、仮説に理解を得られたのならさっそく実験に取り掛かる」
「お待ちください。もう一つ質問があります」
「……まだあるのか?」
わたしの呼び掛けに魔法師団長様は一瞬ひどく面倒くさそうな顔をした。
だが、無視はしないでくれるようで、視線で先を促す。
「実際には恋仲ではない魔法師団長様とわたしが、恋人同士がするような行為をしたところで意味はあるのでしょうか……?」
そう、これだ。
仮説は理解したものの、どうしても引っかかる。真似事に過ぎない行為で意味があるのか、わたしは思い切って疑問を口にした。
実験の根本を揺るがす発言だったが、魔法師団長様はといえば動揺する様子もなく涼しい顔だ。
そしてアッサリとこう言う。
「恋人とそうでない相手の違いというのは、結局のところ恋人間で行う行為の有無だけだろう? そもそも多くの場合、恋人など政略で縁付いた相手というだけだ。つまり行為そのものが治癒魔法に作用すると私は考える」
「チカラをなくす……」
「ああ。原因は描かれていない。それでその後、女は山中で人と関わらずにひっそりと暮らすのだが、ある日遭難した男を助け、その男と恋に落ちる。するとまたチカラが手に戻ったのだ。つまり恋仲の者がするような何かが作用したのではないかと仮説が立つ」
「でも、これは御伽話。創作のお話ですよね……?」
「それはその通りだ。正式な研究文献でもない。だから信憑性もない。だが、真実というのは往々にしてこういった一見何の関係もなさそうな御伽話に紛れ込んでいたりするものだ。特にこの話に登場する女は、明確に描かれていないが察するに平民だ。つまり……」
「わたしの状況と似ている、ということですね。よく分かりました」
ここまでの説明で、魔法師団長様が持つ仮説の背景はよく分かった。
だからあんな突拍子もない実験をするということだろう。
「では、仮説に理解を得られたのならさっそく実験に取り掛かる」
「お待ちください。もう一つ質問があります」
「……まだあるのか?」
わたしの呼び掛けに魔法師団長様は一瞬ひどく面倒くさそうな顔をした。
だが、無視はしないでくれるようで、視線で先を促す。
「実際には恋仲ではない魔法師団長様とわたしが、恋人同士がするような行為をしたところで意味はあるのでしょうか……?」
そう、これだ。
仮説は理解したものの、どうしても引っかかる。真似事に過ぎない行為で意味があるのか、わたしは思い切って疑問を口にした。
実験の根本を揺るがす発言だったが、魔法師団長様はといえば動揺する様子もなく涼しい顔だ。
そしてアッサリとこう言う。
「恋人とそうでない相手の違いというのは、結局のところ恋人間で行う行為の有無だけだろう? そもそも多くの場合、恋人など政略で縁付いた相手というだけだ。つまり行為そのものが治癒魔法に作用すると私は考える」