追放された聖女を待ち受けていたのは、エリート魔法師団長様との甘やかな実験の日々でした
確かに貴族はもちろんのこと、一部を除き平民の多くも家同士の利害関係で婚姻は決まる。婚約が成立してから恋人として仲を深めるのだ。

だから魔法師団長様は、実態はどうあれ、恋人間でする行為に重点を置いているらしい。

 ……でも行為ってどこまでのこと……?

「ああ、心配するな。閨事はしない。観察のため段階を踏んで進めていくが、まあ、せいぜい最大で口づけくらいまでだろう」

わたしの心の内を読み取ったように補足された言葉だったが、その発言にわたしは頬を盛大に引くつかせる。

 ……え、口づけはする可能性があるってこと⁉︎ わたしとこの魔法師団長様が……⁉︎

目の前にいるこの無表情な美貌の男性とそんな行為をする姿が想像できない。

「じ、実験のためとはいえ、魔法師団長様は……その、よろしいのですか……?」

「別に構わない。それで仮説立証ができるなら意義がある。なんだったら私は実験のためであるならば閨事もやぶさかではないくらいだ。まあ、公爵家の人間として下手に子ができてしまうと困るから控えるが」 

「そ、そうですか」

魔法師団長様はどうやら研究とあらば手段を選ばない人のようだ。

とことん仮説を追求しそうな勢いを感じ、これからどんな実験が待ち受けているのかわたしはにわかに心配になってくる。

「ああ、それから、私のことは名前で呼ぶように。その方が恋人らしいだろう? 私もお前をティナと呼ぶ」

わたしがこれから先に不安を抱いていると、思い出したように魔法師団長様からの指示が飛んできた。

ふいに名前を呼ばれてドキリとする。

どうやらさっそく実験の初期段階に突入したようだ。

「ええっと、お名前ですね。分かりました……フィアストン公爵子息様」

「それは家名だ。名前で呼べと言っただろう? レイビスだ」

「……レ、レイビス様」

高貴な方を名前で呼ばせて頂くなんてとても恐れ多くて、わずかに声が震える。

名前を呼ぶだけでこのぎこちなさなのに、これからの実験を思うと先が思いやられた。

「もう質問はないな? では今日の実験に取り掛かるとしよう」

そう宣言したレイビス様は、まずはわたしにソファーへ座るように促す。

何が始まるのか予想がつかずビクビクしながら、わたしは指示通りに腰掛けた。

すると、レイビス様はこちらへ近づいてきて、わたしのすぐ隣に腰を下ろす。その反動でギシリとソファーが軋んだ。

 ……隣に座るの⁉︎ 向かい合わせと違って距離が近い……っ!
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