追放された聖女を待ち受けていたのは、エリート魔法師団長様との甘やかな実験の日々でした
雲の上のような存在のこの高貴な人に触れるだなんて恐れ多すぎる。

そんなわたしの心情を慮ることはもちろんなく、レイビス様は機械的な動きでわたしの方へ手を伸ばしてくると、膝の上に乗せていた手に触れた。

わたしの手の上にに大きな手が重なる。

自分の体温より低いひんやりとした感触を手の甲から感じ、わたしはビクリと体を震わせた。

「ティナは体温が高いな」

「そ、そうですか? 普通だと思います」

「治癒魔法は手から発せられるのだろう? なにか感じるか?」

「い、いえ。特に変化はないです」

レイビス様は無表情のまま、淡々と質問を投げかけてくる。

手に触れるなど大したことではないという態度だが、一方のわたしの心の内は大混乱だ。

治癒行為などを除けば、いまだかつて男性にこんなふうに触れられた経験などなく、どうしていいのか分からない。

 ……レイビス様は慣れているから平然とされているのだろうけど、わたしは今にも卒倒しそう……!

でもこれは実験だ。

そう、実験なのだ。

目的があって実行する行為、つまり治癒行為とさして変わらないはずだ。

 ……処置をする時に触れるのを躊躇うことはないものね。うん、それと一緒! だから落ち着かなきゃ……!

わたしは瞼をギュッと閉じ、こっそり息を細く吐き出す。

深呼吸をしてなんとか心を整えようとしていたのだが、そんなわたしを嘲笑うかのように、レイビス様は次なる行動に出た。

重ねられていた手が離れたかと思うと、次の瞬間、指を絡めて手を握ってきたのだ。

「………ッ!」

不意打ちで訪れたさらなる接触に、わたしは声にならない声を零した。

先程よりも密着度が高い気がする。

手のひらは隙間なくぴったり重なり、指は絡み合い、まるで一つになろうと溶け合うかのようだ。

「これはどうだ?」

「……………」

「ティナ?」

「……と、特に変化はありません」

激しく動揺したわたしは、レイビス様からの問いかけに答えるのもやっとだ。

恥ずかしさから体が熱くなって、手に汗をかいてくる。

 ……どうしよう。このままじゃわたしの汗でレイビス様の手を汚してしまうわ……!
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